天神 -破格-①
『リングストン』で暗躍していた犯罪組織は確かに壊滅したはずだった。だがそれでも次から次へと新しい犯罪組織が立ち上がるのは人間の弱さがなせる業なのかもしれない。
「・・・もう少し規律を強めねばならないか。」
『ジグラト領』を任されていたネヴラティークは相も変わらず己の領土内から麻薬の原料が生産、密輸されている事実に深い溜め息をつくと補佐を務めるナジュナメジナも頷いてみせる。
「欲望に流されると中々歯止めは効きませんからな。強くと仰るのでしたら農場を焼き払った後、見せしめの拷問等が効果的かと思われます。」
「・・・ナジュナメジナ殿の発言は時折大実業家のものを逸脱してきますね。」
「はっはっは。大きな組織を運営するには時に過激な選択も迫られるものです。国家でも事業でもね。」
実際ナジュナメジナは国家の認める範囲内、もしくは少し逸脱した方法を何度も取って来た。
人間とは弱いのだ。だから快楽に溺れて流されてしまう。それを踏まえた上で定期的に不正を暴き、見せしめとして吊るす考え方は周囲への戒めとしても決して悪い事ではないのだ。
ところがア=レイに体を乗っ取られて以降は労働者への報酬を上げたり環境を改善したりと相当な厚遇を展開している為不平不満や不正などは一切聞かなくなった。
それは欲望に流されない条件を満たし続けているからか、それとも認めたくはないがア=レイが労働者達に慕われているからか。どちらにしても今が異常だと感じるナジュナメジナはネヴラティークの会話で思わず溜息をつくとア=レイが不思議そうに尋ねて来る。
《どうしたナジュナメジナ?お前も何か悩んでいるのか?》
《・・・悩みならお前が私の体を乗っ取って以降ずっと続いているよ。しかし折角金になりそうなのに何故麻薬の生産に関わらないんだ?》
《お前なぁ・・・煙草ですら意識と記憶を刈り取られたのをもう忘れたのか?》
《む?そういえばそんな事もあった・・・か?しかしそれと目の前に転がる商売に手を付けないのは話が別だろう?》
《やれやれ。本当に頭の悪い・・・どれ、体と全ての神経を戻してやるから一度その麻薬を使用してみるといい。》
そう言われた後気が付けば自室に戻っていたナジュナメジナは不思議そうに辺りを見回した後、机の上に置かれている枯れた葉っぱを見て小首を傾げる。本来ならやっと解放された喜びにはしゃぎまわってもおかしくない筈だが心は妙に落ち着いており、更に思考は危険な麻薬の事しかない。
(・・・・・一度煙草は経験しているんだ。まぁ大丈夫だろう。)
それからすぐにそれを手に取って紙で巻き、火をつけて吸ってみると驚くような体験に襲われる。何と一呼吸しか吸引してないにも拘らず感情の全てが多幸感に塗り替えられたのだ。
だがこれには大きな罠があった。それはア=レイが戒める為にとても純度の高い葉っぱを用意していた事だ。
つまり彼は手にしている一本で麻薬成分を過剰摂取するに至ってしまう。一瞬の多幸感は意識の混濁に沈むと体中の力が抜けてその場に倒れ込んだ後、呼吸が止まってしまった。
《おっと、少し強力過ぎたか?》
そこに珍しく僅かな焦りを見せたア=レイが戻ってくるとこれまたナジュナメジナは一瞬で意識を吹き返すのだが彼の目的はしっかり成就されていたらしい。
《・・・はれっ?!こ、ここは・・・?い、いや、どうでもいい!!そんな事よりさっきの葉っぱはどこだ?!あ、あれがないと私は・・・私はっ!!》
《本当に模範解答を示してくれるなお前は。それだよ、私が気に入らないのは。禁断症状による極度の不安感は麻薬による多幸感でしか埋められなくなる。最後は使用する事しか頭に残らない廃人に利用価値などある筈がないだろう?》
彼はそれを教える為にわざわざ重度の麻薬中毒者に仕立て上げたのだが、効果覿面を超える症状をみて溜息をつくと僅かに体が光ったナジュナメジナは我を取り戻す。
《・・・な、何と恐ろしい・・・今でも少し麻薬を吸いたいという衝動が残ってるぞ?》
《わざと残してあるからな。さぁ、この話は終わりだ。》
相変わらずとんでもない男だ。しかし共に5年以上過ごしてきたナジュナメジナはア=レイがヴァッツを上回る力を持つ存在だというのも知らず、この日も得意のぼやきで話題を終えるのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。
あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
https://twitter.com/@yoshioka_garyu




