恩義 -その資質-⑦
破格の力をもつ彼が大怪我を負うなど誰も想像していなかった。
「おいタシン、相変わらずア=レイの事は何も思い出せないのか?」
あの事件以降、タシンは色んな人間から事あるごとに質問されるのだが邂逅した事実は記憶を捏造されたのではと考える程に何も思い出せないままだった。
「困ったよね・・・もしかして本当に私の思い違いかな?」
「んな訳ねぇだろ。あのヴァッツが大怪我したんだぞ?ア=レイって奴、相当やばいのは間違いないんだ。」
「・・・君もそんなやばい奴と会ってる筈なんだけどね。カズキ君こそ何か覚えてないの?」
「・・・・・全く覚えてねぇ・・・・・くそっ。」
となると再び現れるまでは手の施しようがないのではないか?しかし不思議と恐怖を感じなかったタシンはいつも通りあっけらかんとしていると食堂にヴァッツとクレイスがやってきた。
「ヴァッツ!もう体は大丈夫なのか?!」
「うん!ルルーのお陰ですぐに治ったし皆大袈裟だよ?」
心臓を貫かれるどころか破壊される程の大怪我だった筈だが生きているのは破格故か。クレイスと並んで座ったヴァッツはいつも通りの明るい笑顔を浮かべながら食事を始める。
「・・・・・破格、か。」
タシンもア=レイとのやり取りは全く覚えていない。だが出会った事実と彼から告げられた助言だけは何故か脳裏に刻まれている。更に厄介なのはア=レイがヴァッツ以上に破格の存在だと本能が覚えていた点だ。
だからだろうか。先日まで悩みの種だったカズキに対してどう接するかという問題はいつの間にか自己解決しており、潜在意識の中で本当に依存出来る存在を無意識に敬いつつ、タシンは今日ものらりくらりと一日を過ごすのだった。
「ショウ君、ちょっといい?」
先日の事件では別の角度から少しだけ違和感を覚えた者もいた。それがルルーだ。
「どうされました?」
「あのさ、ヴァッツ君って何者なのかな?」
「???」
いつものように執務室での作業中、2人だけなのを確認した彼女は近づいてきて小声でそう尋ねてきたのでショウも意味が分からず小首を傾げる。すると今度は更に近づいて声を潜めるとその意味を教えてくれた。
「・・・実は昨日の大怪我って、私治癒してないんだよ。」
「・・・・・え?」
「『緑紅』の力は開放したんだよ?でも全然反応しなくて・・・でもでも、ヴァッツ君の体が私の治癒能力よりも早くに快復しちゃったから・・・凄くない?」
確か『天族』であれば午前零時を迎えるとどのような怪我も治ると言っていた。しかし彼はそうでもないし昨日はそんな時間でもなかった。となると破格の力の中に人智を超えた自己再生能力もあるという事だろうか?
「・・・ヴァッツ、ですからね。後でこっそり尋ねてみましょう。」
その気になれば死者も甦らせる事が出来るのだから今更な気もするが、彼の新たな能力を知ったショウは小声で返すとその夜は再び4人で集まる場を設けてア=レイへの対策を講じつつ、その話に触れていた。
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