恩義 -その資質-⑤
「聞きたい事は沢山あるが・・・まずは力を確かめた方がいいよな?」
「相変わらず血の気が多い青年だ。いいだろう。十分に試してみたまえ。」
まさかここで?
一瞬疑問が脳裏を過るも戦闘狂は周囲を気にすることなく刀を思い切り振り下ろし、薙ぎ払ってしまう。その勢いはすさまじく、ア=レイは何も動きを見せないまま堂々と攻撃を受けてしまった。
「・・・何だ?手ごたえが・・・」
「全く無いだろう?残念だがそれが君の限界なのだよ。しかし筋は悪くないな。今後も精進するが良い。」
「・・・だったらもうちょっと付き合ってもらうぜ?!」
彼からの激励とも取れる言葉を聞いていよいよ本気を出したのか、カズキが更なる追撃により周囲の壁や床に亀裂だけは入るが相も変わらずア=レイは涼し気な顔で立ったままだ。
「うわっ?!?!」
「な、何だ?!?!」
近くにいた人間にとっては突然刀を振り回したカズキの方が脅威かもしれない。ところが驚いて声を漏らすだけで辺りをきょろきょろと見回した後は何事もなかったかのように立ち去るではないか。
「・・・何か術を使ってやがるな?」
「正解だ。今私達の存在は周囲に感じ取られないようになっている。そんな事よりタシン、君は今のままで十分魅力的だと思うよ?」
「え・・・・・そ、そうかな?」
更にア=レイは猛者であるカズキを差し置いてこちらに声をかけてくる。しかもその内容がまるで心の内を全て知っているかのような助言だったのでタシンの心には言い知れぬ多幸感が芽生えてしまう。
「ああ、臆病で何事にも自信が持てないその性格はいかにも人間らしい。本能にしか頼る事が出来ず、故にカズキへの接し方もそれしか出来ない。いいじゃないか。とても初々しくて。」
「タシン!!耳を傾けるな!!そいつは相当危険だ!!」
己の攻撃を全て無力化されたからだろう。カズキがあまり聞いた事のない声で注意を呼び掛けるが彼の言葉は彼女の心を掴んで離さない。
これこそが恋なのだろうか?
呼吸が乱れて浅くなる中、まるで吸い込まれるような蒼い瞳から目も離せなくなったタシンは知らず知らずのうちに歩み始めて手を伸ばそうとするとカズキがその体を俵のように肩に抱えて大きく後ろに跳んだ。
「大丈夫だよ。私の興味は息子に集まりつつある。それを確かめたら帰るつもりさ。」
「・・・息子って誰の事だよ?」
「ヴァッツだ。あいつは私の血と力を唯一引き継げた存在なんだよ。しかし・・・あまりにも弱すぎる・・・おかしいと思わないかい?」
ヴァッツが弱すぎるという言葉にはカズキでさえも唖然とするしかなかったらしい。しかしタシンは違う。もしかすると自分が絶大な信頼を置いて依存出来るのはこのア=レイなのではないか?と興奮せずにはいられない。
「今だってそうだ。私がこんなに近くに来ても気が付きもしない。私だよ?私がここにいるんだよ?全く・・・資質はあるはずなんだがなぁ。」
「・・・お前は何だ?『天人族』か?『魔人族』か?」
「どっちでもないよ。そもそも人じゃないんだ。私達は。」
その答えを聞いた瞬間カズキはタシンを素早く降ろすと何故か再び殺気と怒気の篭った一撃を放つがそれは幾度試しても届く事はないだろう。
「・・・ねぇア=レイ。私を君の傍に置いてもらう訳にはいかない、かな?」
「おい?!何馬鹿な事言ってんだ?!」
馬鹿とは失礼な。心酔してしまったタシンは本気なのだ。今度こそ安寧の地を見つけたのかもしれない。ヴァッツよりも濃い蒼色の髪を持つ男に尋ねるとカズキは叫び、ア=レイは軽く首を横に振る。
「人間はナジュナメジナという玩具で間に合ってるんだ。それにさっきも言っただろう?君は君のままでいい。私が言うんだ、信じてくれたまえ。」
そう言うと彼はまるで霞のように薄くなって姿を消してしまう。一体何者だろう。タシンはカズキに尋ねようとしたのだが不思議な事に彼は今の邂逅を全く覚えていないのだった。
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