恩義 -その資質-④
「・・・自分の事がわかってないってどういう事かな?」
ここに来た目的とは別の質問を呟くように零すと時雨とハーラーは顔を見合わせる。
「さっきも言ったけど気概、決意って言えばいいのかしら?何が何でも彼を手に入れたいっていう気持ちが全く感じないのよ。今ヴァッツ様の名前を出したのが明確な証明でしょ?」
それは性格なのだ。あまり重い言動を好まないタシンはつい冗談交じりに返しただけなのだが必死さが痛々しいハーラーには通じなかったらしい。
「・・・やれやれ。やっぱり君は私と合わないみたいだね。」
「言っておきなさい。さぁ時雨さん、この子を追い払ってヴァッツ様をお呼びしましょう。」
最後は一方的に終わりを告げられるとタシンも興味を失って席を立つ。と、同時に扉が軽く叩かれた後にカズキが入って来た。
「様子がおかしいってんで来てみたんだが大丈夫か?時雨、迷惑かけたな。」
「いえ。特に問題はありませんでした。ただ・・・カズキ様もタシンをもう少し気遣ってあげてください。」
「お?!おお・・・あれ?そういう話?」
昨夜悩みを聞こうとした行動は認知されておらず、時雨から心配そうな声を掛けられたのでやや困惑していたようだがもう何でもいい。タシンはこちらに近づくカズキの手を掴むと不機嫌さを隠そうともせず部屋から無理矢理退室する。
「何だ何だ?悩みはまだまだ解決しそうにないのか?」
「・・・そうだね。カズキ君が私だけを見てくれてたらこんな気持ちにはならないと思うよ?」
途中、本心の半分を告げると思い当たる節がある彼は物憂げな表情で何か言い訳を考えていたようだがそれもどうでもいいのだ。自身の心には嫉妬にも届かない独占欲しかなく、カズキに対する気持ちといえば常に寄りかかっていたいくらいしかない。好きというのも彼へというより彼の存在に向けてだ。
であれば本当にヴァッツを頼るべきか?
この世界では誰も敵わないと謳われる彼の傍こそタシンの求める強大な依存先として適しているのではないだろうか?
「しかしなぁ・・・俺も好いた惚れたっていうのがどうにもわかんねぇっていうか・・・」
ただ似た者同士と考えるとやはり彼の傍が良い気がする。互いに初めて体を重ねた時から感情よりも本能を優先してきた。自分という存在に自信がないタシンもそれでよかったのだ。
ところが最近のカズキは成長し始めているらしく、相手を気遣う事を覚えてしまった。それが昨夜の相談だったり歩幅を合わせてくれたりなのだが未だ一歩を踏み出せないタシンはそれが不快にしか思えなかった。
以前のままでいいし、以前のままが良い。深く考える事無く当たり前のように傍にいてくれるだけでよいのに何故彼は成長し、余計な異性を呼び込んでしまうのか。
「やぁタシン。随分思い悩んでるね?」
決して気持ちに訴えるという方向に思考が働かなかったタシンはどろどろした感情を内包させつつ、ハーラーと自分の違いについて少しだけ考え直していると不意に声を掛けられたので足を止める。
「・・・あれ?あなたは・・・誰だっけ?」
「はっはっは。私はア=レイという。息子の様子を見に来たんだけど君も中々面白そうだね?」
ア=レイ・・・どこかで聞いた事があるような?
しかし姿形の情報がなかったのですぐに彼の正体と結びつかなかったタシンは威圧感も感じなかったのもあり小首を傾げていると、カズキが一瞬で髪の毛を逆立てて迷う事無く刀を抜いたではないか。
「てめぇがア=レイか?!つかよく『トリスト』の城内に堂々と入ってきやがったな?!」
「おや?カズキか・・・まさか私の存在を感じ取るとは。流石はヴァッツのお気に入りだな。」
突然の出来事なのもあるが、こうなると全くの無力である自分が呪わしい。ただア=レイと呼ばれる爽やかな中年男性の底知れぬ力には依存体質が本能を通じて反応しているのか、思わずその胸に体を預けたい衝動が沸き立つのだった。
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