恩義 -その資質-①
『ウラヴィ大陸』で悪女として認知されていたハーラーを入国させた話は方々で様々な噂になっていた。
「まぁヴァッツ達とは違う意味で不思議な奴だよな。騒ぎを起こす度に誰かが擁護するんだ・・・それを利用して男に取り入ってたのか?」
しかしタシンにとってそれらの内容はどうでも良かった。昼食時にはカズキも彼女の行動に全く計画性が無いと感心するような発言をしていたのだが、その内容も今はどうでも良い。
「・・・そういうのを『悪運』っていうのかな。で、ハーラーってヴァッツ君を狙ってるんでしょ?周りは大丈夫なの?」
「ああ。あいつ自身が何も意識してないんだ。放っておくしかないだろ。それよりもハルカ達の方が刺激を受けて積極的に動くようになったっていうんだから面白いよな。」
同性故にハーラーを危険だと察知しているのだろう。だからヴァッツが彼女に興味を持たないよう今まで以上に接近するようになったらしいが当事者からすると面白さとは真逆の心境の筈だ。
「・・・カズキ君もそういう所はまだまだお子ちゃまだよねぇ。」
「む?どの辺りがだよ?」
そうやってすぐむきになる所、と言いたいがそれを口にすると無駄な時間と労力を浪費するのでタシンは不敵な笑みを浮かべるに留める。すると彼も察して深く追求してこない。
この世界にやってきて後悔はない。それでもハーラーの楽しそうな様子を、元は王妃だというのも鼻に掛けず侍女としてしっかり働いている姿を見聞きすると多少の焦りと虚しさが込み上げてくるのだ。
自分の存在価値は何なのだろう。これは昨日今日感じた負い目ではない。
元々自我という芯を強く持っていないタシンはいつも誰かに依存してきた。『ハルタカ』に気に入られたのもその為だ。
『トリスト』についてきたのもカズキという拠り所を求めたに過ぎない。彼に寄り掛かる事で今後もまた、のらりくらりと生きていく。自分の強い意志や感情などを気にすることなく、ただただ状況に身を任せて。
「ねぇカズキ君、今晩君の部屋にいってもいい?」
「ああ、いいぜ。」
彼と体を重ねるのもそういった理由からだ。繁殖行為の間は思考より本能が優先される。嫌な事を忘れられる。まさに逃避の為だけの行動だ。
だが最近ではその平穏が悪女と噂されたハーラーによって乱されてしまう。目障りで仕方がない。何故自分と同じただの人間がこの世界で最も強いと謳われるヴァッツに、許嫁として沢山の綺麗な少女達がいるのを知っても尚、その中に割って入っていけるのか。
極端に自我の強いハーラーと自我の弱すぎるタシン。その自覚もない彼女は今夜も抱いてもらう事で全てを忘れようと考えていたのだがカズキは決して暗愚ではないのだ。
「ま、とりあえず座れよ。んでこれ、クレイスの差し入れだ。」
その夜、彼の部屋に入ったタシンは小さな円卓の上に置かれた悪魔族の美酒と硝子の杯を見て心が弾む。
「お?どうしたの?いつもより優しさを感じるね?」
「俺も色々学んでるんだよ。それより座ってその悩み?とやらを聞かせてくれ。」
更に気を使った発言に普通の女ならより心が躍っていただろうが依存したいだけのタシンはそれを余計なお節介としか受け取れず、仕方なく椅子に腰かけはするものの機嫌は急降下だ。
「はぁ。君ねぇ・・・私が君に求めるのは傍にいてくれる事と優しく抱いて欲しいだけなの。余計な心配させたのなら謝るから、今度からそういう気遣いはしないでくれる?」
「って言われてもなぁ。お前最近特におかしいからな。ショウやクレイスも心配してるんだ。放ってはおけねぇよ。」
この場面で他の異性の名前を出された事でタシンの心は不愉快に染め上げられていたがもういい。
カズキの真剣な雰囲気をよそに彼女はお酒をなみなみと注いだ杯を一気に飲み干すと勢い良く立ち上がって彼の膝の上に座り直す。
そして唇を重ねようとしたのだが彼が小さな溜息を漏らした事で感情はついに怒りへと移行し、後は気の済むまでその体を攻め続けるのだった。
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