恩義 -侍女の務め-④
「お、お疲れ様です。クレイス様。」
だが男を堕とすという意味で華々しい戦歴を持つハーラーは何とか声を絞り出すと彼も一瞬驚愕を浮かべた後、爽やかすぎる笑顔を浮かべてきた。
「ありがとう。どう?少しはここの生活にも慣れた?」
「は、はい。皆様から大変よくして頂いているので・・・」
「それはよかった。えー、イルフォシア、ルサナ。あと珍しいね?ノーヴァラットまで。そんなに敵意を向けないの。僕は大丈夫だから。」
接してみると軽い感動すら覚える。これがクレイスか、と。話によると彼は来年この国の国王になるという。であれば狙うべきはこちらなのでは?と思わなくもないが正妻が噂されるイルフォシアが物理的に怖くて命を懸けてまで手を出すつもりはない。
「あの、クレイス様。折り入ってお話がございます。よろしければ人払いをお願いしたいのですが・・・」
そもそもハーラーはヴァッツしか見えていないのだ。侍女という立場に甘んじてきたのも全ては彼を堕とす為であり、それ以外は感情を押し殺して利用するだけだ。
「え?!いいけど・・・それじゃ僕の部屋に行こうか。皆は少し待っててもらえる?」
「・・・・・ハーラー?わかっていると思いますが余計な行動をすると命はありませんよ?」
ある意味彼女が一番悪女なのではないか?ナレットですらここまで脅威ではなかったと内心震えながら後をついていくと彼は優しく部屋に通してくれる。
「それで?話って何かな?」
「はい。実は・・・・・」
しかし恐怖を乗り越える事だけに集中していたハーラーは言葉に詰まった。ヴァッツの気を引くにはどうすればいい?クレイスをどう利用すればいい?
正直この場を設けて貰えたことすら想定外だったので己の無計画さに狼狽えそうなのを必死に堪えていると察してくれたのか、椅子に腰かけるよう促した彼は自らお茶も用意してくれた。
これは訓練場に人だかりが出来るのも大いに頷ける。
もし自分が生娘なら間違いなく押し倒すか押し倒して欲しいという本能が踊り狂っていただろう。経験豊富な彼女は何とか理性を総動員して必死で思考を働かせるとその口はゆっくりと開き始めた。
「・・・・・あの、私はどうすればヴァッツ様の御傍に仕える事が出来るのでしょう?」
本当ならもっと搦め手を使いたかった。もっと自分らしい言葉があった筈だ。それでも真っ直ぐな気持ちを伝えたのはクレイスからもヴァッツに似た純粋さを感じたからだ。
「・・・君は本当にヴァッツの事が好きなの?その力を利用したいが為に近づくんじゃないの?」
好き。好きとは何だ?
好きか嫌いかの二択で選んだ好きなのか?それとももっと別の意味を含めた好きなのか。相手に向ける好きなのか、はたまたヴァッツを一途に思う自分が好きなのか。
今まで深く考えた事のないハーラーはその答えを見つけ出すのに随分と時間をかけたが唇は動こうとせず、声も鳴りをひそめたままだ。
「・・・利用は、したいと思っているのですが、正直ヴァッツ様の御力がどのようなものなのかさっぱりわからないので何とも言えません。ただ、今は彼の傍に仕えたい、いえ、彼に振り向いて欲しいと強く願っています。」
それでもこの好機を逃す訳にはいかない。彼女はこれまでの人生を振り返って自分と向き合った結果、ここでもまた素直な気持ちを吐露するとクレイスは目を丸くした後、優しい笑みを零す。
「そうなんだね。やっぱりヴァッツの言ってた通りだ。」
「・・・え?!」
「ヴァッツがね。ハーラーは悪い人じゃないって、もしオレの傍にいたいって言うのならいてもいいよって。僕は君の事を知らなかったから何も言えなかったんだけど今の言葉を聞いたら納得したよ。」
「ま、まぁ!!ヴァッツ様がそのような事を!!」
やはり彼なのだ。彼以外に自分が堕とす存在はいない。まさか侍女として働き始めて以降全く会えていなかったのに自分の事を話題に出してくれていたなんて。
その事だけでも余程の衝撃と感動を覚えたらしい。涙なんて男を堕とす時にしか流さなかったハーラーが無意識に溜めてしまうと本人は驚愕を、クレイスは更なる納得を得たようだ。
「いいよ。僕から頼んであげる。でもヴァッツの周りも気の強い人ばかりだからなぁ・・・喧嘩とかしないでね?」
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