恩義 -侍女の務め-③
前評判が見境なく男をたぶらかす悪女、だったので城内では余計に噂になっていく。
だがそれでいいのだ。会えずとも周囲が話題に出してくれる事でハーラーの話がヴァッツの耳に届けばそれでいい。そう考えていたのだが1つだけ想定外だった事がある。
それがアルヴィーヌだ。
「あの・・・アルヴィーヌ様はどちらに?」
「はい。アルヴィーヌ様でしたら『アデルハイド』で国務にあたっておられます。」
姦しい召使い達を口説いてなるべく彼女の部屋に赴けるようにはなったが彼女とほとんど会えていないのは大きな誤算だ。自由奔放、要は我儘で国務など一切こなしておらず、常に城内でのんびり過ごしているという話だったのだがそれは一昔前までらしい。
今では彼女にしか出来ない仕事に従事しているとも聞きはしたがまさかこんなに毎日出向いているとは。
「ただいま~。」
「おかえりなさいませ。」
一応夜には帰ってくるので僅かな時間だけ接する事は出来るもののアルヴィーヌはあまりおしゃべりが得意ではないらしく、情報を聞き出そうとするとこちらが一方的に話しかけるよう見えてしまう。
側近であるハイジヴラムが傍にいる為つい遠慮気味になってしまうのもあり、結果として計画はほとんど進まない状態なのだ。
せめて彼が何処かに行ってくれれば・・・何なら先に彼から堕とすか?
そうだ。自分は目的の為に男を堕としてきたではないか。久しぶりに過去の自分を思い出したハーラーはその日から気取られないようにハイジヴラムを観察してみたのだが常に大きな鎧と恐ろしい鉄仮面を被っている為外見は全く分からない。
更に彼もアルヴィーヌに似てあまりおしゃべりが得意ではないのか、時々話を振ってみても大した情報を得られないのだ。
ヴァッツに近づけない時点で相当難しい道だと理解していたつもりだがこうなってくると作戦を変更すべきか?と考えていると相変わらず人だかりの出来ている訓練場の傍で姦しい召使い達を発見する。
「貴女達、こんな所で何してるの?」
「あっ!ハーラー様!!実は今クレイス様が訓練をされているんですよ!!」
それなら納得だ。あの人目を惹きすぎる彼は事もあろうに能力も高いらしい。自分の世界でも空を飛ぶ存在はいたものの『魔術』というのはハーラーも初めて知った。現在クレイスはその能力をより生かそうと修練に明け暮れている話も聞いてはいた。
(・・・確かヴァッツ様とも懇意の仲なのよね。だったら彼から攻めてみようかしら?)
実はそれも少し考えたのだが目立ちすぎる彼に近づくという懸念点からどうしても踏み切れなかったのだ。
「「お疲れ様です。クレイス様。」」
他に彼もまた、数多の異性から交際、及び婚約を持ち掛けられている点がある。総合的な能力を考えると至極当然なのだが問題はその少女達がリリー以上に過激な者達ばかりなのだ。
特に王女であるイルフォシアが見せる怒りは本当に誰かを殺しかねない程で嫉妬という言葉で片づけるのは無理がある。いや、王族なのだからそれでぎりぎり許されるのか?
対して側近のルサナも見た目は可愛らしい少女なのに人外の能力を秘めており、時々イルフォシアと本気で戦っているのをハーラーも何度か見た。
これも強国故の問題なのか。
集まる人材が尽く強者以上なので何も持たないハーラーが近づく事さえ躊躇してしまう環境はある意味軟禁されているのと同じなのかもしれない。
ただ指をくわえて眺められる程大人しくもないのだ。
彼女はこの日、意を決して訓練が終わったクレイスに近づくが予想を超える敵意を受けると思わず顔と足が引きつってしまった。
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