恩義 -侍女の務め-①
まさか大陸が中空に浮いているとは。
飛空馬車だけでも相当な驚きだったが、そのまま雲と大地が一体化している空の国家に入ったハーラーははしゃぎたい子供心を抑えつつ窓の外から見える景色に唖然とする。
入国審査が厳しかった理由もここにあるのだ。一度入ってしまうと外に出るのは難しく、空中国家ならではの秘密を持ち出されるわけにもいかないのだろう。
ある意味監獄とも呼べるこの国で生きていくには相当な覚悟と矜持がいる。様々な環境を渡り歩いてきたからこそ瞬時に理解すると飛空馬車は荘厳な白い大理石で出来た王城の中庭に降り立った。
「もう一度確認しておきましょう。ハーラー様の身分はあくまで召使い寄りの侍女であり、同時に『ウラヴィ大陸』の証人として扱います。最も重要なのはヴァッツに色目を使わない事、これが破られた場合はそれなりの処罰が課せられます。よろしいですね?」
「ええ、わかっているわ。」
大丈夫。今までの経験と美貌を駆使すれば必ず彼の方から自分を求めてくれる。その自信によって侍女という立場を受け入れたのだが降り立ってすぐ目に留まったのはそれこそリリーに負けない容姿を持つ銀髪の少女だ。
「おかえりヴァッツ。そっちが噂のハーラーだね?」
「ただいま!!うん!今日からお城で働く事になったんだ!!」
「初めまして、ハーラーと申します。失礼ですが貴女は?」
「おっと。初めまして。私は『トリスト』の第一王女アルヴィーヌ=リシーア=ヴラウセッツァーと申します。」
何となくヴァッツに似ている部分を感じたのはその幼さだろう。しかし挨拶からは王族らしい気品と威厳を感じる所を見るに、しっかりと切り替えの出来る人物らしい。
「姉さん・・・立派になられて・・・あ、失礼しました。私は『トリスト』の第二王女イルフォシア=シン=ヴラウセッツァーと申します。」
そして少し距離を置いたところから感涙で瞳を潤ませた少女が姿を現すと彼女も卒なく挨拶を交わしてきた。
(これがナレットの言っていた王女ね・・・・・凄いわね?!)
美貌に絶対の自信があるからこそ素直に認めるつもりはないのだが、それでもこちらはまばゆい金髪と姉とは違う美しい容姿に目と心が奪われそうになる。
「ようこそ『トリスト』へ。僕はクレイス=アデルハイドです。それでヴァッツ、どうだったの?旅は満喫できた?」
更にナレットが惚れているという青年が姿を見せると今度もまたハーラーは視線を外せなくなった。なるほど、これは凄まじい。
自分も今までいろんな色男や美少年に美青年を見てきたつもりだがこれに比肩する存在は記憶にない。女なら誰しもが夢見る容姿の全てを兼ね備えているのではないか?男を所有物として捉えてきたハーラーでさえそう思わずにはいられなかった。
「楽しかったよ~!その中でハーラーの事も色々知れたしね?!」
「まぁ!ヴァッツ様ったら!!」
だが今は彼の言葉一つで少女のように浮かれてしまうのだ。
「ほう?彼女とそんな様々な話をされたのですか?是非私にも教えて頂きたいのですが。」
まさかあの旅で十分に意識してくれていたとは。これは思っている以上に正妻への道は近いのかもしれないと思わず頬を緩めるが、同行していたショウが不思議そうに尋ねるとその答えはハーラーの求めていたものではなかった。
「うううん。話っていうか、ハーラーってかなり器用なんだよ。教えられた事はすぐに覚えるしね。でも旅の途中はずっと下手なふりをしてたよね?あれはなんで?」
「「「「「・・・・・」」」」」
・・・ばれていたのか。普段の様子から計り知れない力を持つ幼い少年のようだと思っていたのはそれこそ勝手な思い違いだったらしい。
「今からでも排除するのはあり、ですよね?」
しかし怒りを浮かべるリリー達の様子から彼にしか見抜かれていなかった。見抜けていなかったのだ。
そう考えるとやはりヴァッツという青年を是非堕としたい、自分の物にしたいという更なる衝動から現在の状況も忘れてつい恍惚とした笑みを浮かべてしまうのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。
あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
https://twitter.com/@yoshioka_garyu




