恩義 -傾国と美女-⑩
「あの、私から是非お話したい事がございます。」
次の日、山賊達の騒ぎなどなかったかのような一行にそう告げたハーラーはヴァッツの乗る馬車への同乗を懇願すると彼は二つ返事で快諾してくれた。
そして真正面の椅子に腰かけるとまずはじっくりと全身を見定め始める。
力の正体はさておき、顔はやはり童顔っぽいか?しかし真っ直ぐな双眸と子供のような瞳には確かな将来性を感じる。
大将軍というだけあって体格は相当良いらしい。広い肩幅や大きな手から更なる成長が期待できるし衣服の上からでも分厚い胸板と腕の太さがよく見て取れる。
「ハーラー。ヴァッツ様への色目や粗相は許さんぞ?」
そんないやらしい目線はすぐに感づかれたのだが、側近であるクンシェオルトが釘を刺してくるがそれを主自ら庇ってくれるので一切気にする必要はない。
「ヴァッツ様はお強いのですね。昨日の山賊達もご自身が動かれる事無く撃退されましたし。でもあれだけ一方的だったのに何故逃がされたのですか?」
なので次は内面に触れていこう。出来ればその強さの秘密とも呼べるものについて詳しく聞きたいがここは慎重にいかなければならない。何故なら最終目的は彼の心を射止める事にあるのだから。
「え?だってもうしないって約束したし。ね?ショウ?」
「その通りです。しかし見せしめに何人か吊ってもよかった気はしますね。」
どうやら少しお頭が弱いらしい。そしてショウはそれを利用するという関係か。であればその立場も一緒にハーラーが奪ってしまえばよい。
それからあの生意気な許嫁を手放すようじっくりと擦り込むのだ。そうすればここまで溜まりに溜まった鬱憤も多少は晴れるだろう。
「それよりお話とは?」
「あ、はい・・・その、私の処遇はこれからどうなるのでしょう?」
もちろん話など無い。ただヴァッツに近づきたくて適当な口実を作っただけだ。それでもショウやクンシェオルトから放たれる非常に鋭い気配と視線を躱す為に些細な質問を投げかけると2人は顔を見合わせる。
「貴女からは『ウラヴィ大陸』について色々お聞きしたいのですが何分狡猾さが目に余りますので。ソーダ様と合流してから詳しく考えるつもりです。」
つまり発言の裏付け役を得るまではこのまま軟禁された捕虜という事か。それならそれで悪くない。ハーラーはそれまでに何とかヴァッツへの覚えを良くしようと色々言葉を交わすのだが今まで出会ったどの男とも違う彼の反応にいちいち困惑してしまうのだった。
ただ彼らは基本的にとても甘い。そのお陰で少しずつ交流を続ける事で思わぬ副産物を生み始める。
「おいハーラー。ヴァッツ様に色目を使うなってクンシェオルト様からも言われてるんじゃねぇのか?」
それが大きな嫉妬だ。彼女達もヴァッツの力を利用する為に必死に自身を売り込んできたのだろう。それを後から来た絶世の美女にかっ攫われたとなれば気が気ではないのも頷ける。
「あら?私はただ普通にお話してるだけよ?貴女達こそ歪んだ物の見方をするのは止めてもらえるかしら?」
そういう相手の心情が手に取るようにわかるからこそ敢えて挑発的に、且つ少しとぼけた様子で尋ね返すとリリーだけではない。時雨という普段から無口な少女も非常に恨めしそうな表情を浮かべているのだから堪らない。
やはり立ち位置はこうでなくては。
常に相手より上であり、他者を見下せる身分こそが相応しい。
改めて自分の美しさと華麗なる立ち回りに自信を取り戻したハーラーはその日もずっとヴァッツの傍に付いて回っていたのだが彼もこちらを気にかけてくれていたのか、この夜は珍しく1つの提案がなされた。
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