恩義 -傾国と美女-⑧
この旅で最も身分の高いのは赤毛のショウと呼ばれる隻眼の青年と青い短髪の童顔に似合わぬ体格を持つ大将軍ヴァッツである事は早々に理解する。
他にもリリーは元々戦士なのだろうか。旅の最中には許嫁とは思えない程簡素な衣装を着こなしているし時雨やハルカの2人も見た事が無い衣服に身を包んでいたがここはどうでもいい。
問題はこれからどう立ち回るか、そこだけだ。
そもそもこの一行には不思議な点が多い。『トリスト』という国の左宰相や大将軍という人間が旅をしているにも拘らず馬車は三台だけだし付き人らしい付き人は御者が計6人だけなのだ。
野営時にはリリー達だけでなく大将軍の側近であるクンシェオルトとやらも見た目に反しててきぱきと働き、その光景には身分の差を忘れそうになる。
「何故もっと臣下や衛兵を連れてこないのですか?このような雑用を大将軍様がする必要はないでしょう?」
なのである日、食事の最中にふと尋ねてみると全員が目を丸くした後、その視線はショウに集まった。
「そうですね。普通の一団であればそれでいいのでしょうが、今回の旅はヴァッツの楽しみを満たす意味も含まれております。彼は自分で動くのが好きなんですよ。」
いや、流石にそれはおかしい。
ハーラーも各国の重臣や国王に取り入って来たからある程度わかる。重臣や王族の移動というのは道中に襲われないとも限らない。だから部隊を引き連れる事で周囲に警戒と畏怖をまき散らすのだ。それは大国であればある程規模が膨らみ、襲撃をかける側もそこから情報を汲み取って大抵は諦める、これが国としての移動の形の筈だ。
その常識から考えると彼らの規模は恐ろしく小さい。左宰相と大将軍が移動するとなれば数百人規模の部隊が護衛についてもおかしくないというのに。
つまりそこから導き出される答えは1つ、『トリスト』とは相当な小国か貧困な国に違いない。
そんな国でもリリーという存在を上手く扱う事で周辺国から数多の貢物を得ているのだろう。ただ無駄な浪費は出来ないのでどうしても移動時の規模は小さくなると考えれば辻褄が合う。
「・・・何故私がそんな国に囚われねばならないの・・・はぁ。」
ショウの答えを少しも理解していなかったハーラーはつい溜息を漏らすがそれは仕方のない事だ。何故ならこの一行には絶対に誰も敵わない存在が同行しているという事実を知らないのだから。
故に彼女の後ろ向きな考えを耳にしても誰も気にすることも咎める事もなく、その日は皆が焚火で暖を取りつつ就寝したのだが翌日、ハーラーの心配事は形となって現れる。
「おはよ~!!ねぇショウ、昨日の真夜中に山賊さんが襲ってきてたんだけどこれどうしよう?」
「えっ?」
リリーやハーラーといった美女が少数の護衛のみで移動しているとなれば彼らが襲ってこない理由が無い。こうなるから部隊を率いるべきなのだと自分の正しさを再認識したハーラーは不機嫌な表情を浮かべてショウとヴァッツを睨みつけるがすぐに違和感も覚えた。
「ほう?それらは今どちらに?」
「『ヤミヲ』に頼んで影の中に落としてあるよ。オレは無益な殺生をしたくないんだけど・・・どうする?」
「ふむ。では朝食を済ませてから全員を並べて解放してあげてください。そこで少しお話をしてみましょう。」
当然何も知らない彼女が理解するなど到底不可能なのだが一行は悲壮感や焦燥感を微塵も感じさせずのんびりと朝食を済ませる。それから他の面々が後片付けに旅の準備を進める間、2人が茂みの中で少し話し合ったかと思えば突然数十人規模の人影が一斉に現れたのだから唖然としてしまう。
「私達は『トリスト』の左宰相ショウと大将軍ヴァッツです。今後二度と我々の国、及び周辺国の人間に危害を加えないと約束して頂けるのなら解放いたします。」
そしてつい興味から無意識にふらふらと近づいていたハーラーの耳に有り得ない程お気楽な内容が聞こえてくると彼女は山賊達と同じような表情を浮かべて驚愕を示していた。
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