恩義 -傾国と美女-⑥
「ハーラーだっけ?じゃあ元の世界に帰る?」
「・・・・・え?」
薄々気が付いていたのだがどうやら本当にここは自分のいた世界ではないらしい。であれば是非強王ムチャカの下で、あの輝かしい王妃生活に戻りたい。
「そういえば『ネ=ウィン』のソーダ様も帰国を望まれていた筈。サンヌ様、ではハーラー様は我々が保護するという形でよろしいでしょうか?」
「よかろう。ただし、リリーを置いて帰るのが条件だ。良いな?」
「てめぇ・・・もう一回殴られないと気が済まないみたいだなぁ?!」
「リリー、ヴァッツ様の御前ですよ。ほらほら抑えて抑えて。」
ソーダという名は聞いた事がある。確か強王ムチャカが現在侵攻していた小国の戦士だった筈だ。であれば元の世界に戻る、『ム=カマル』に帰れる話も本当なのか?
「あの・・・ヴァッツ様は『ム=カマル』をご存じなのですか?」
未だに逞しくも優しい腕に抱かれたまま尋ねると彼はまるで少年のようなはにかみを見せて答えてくれる。
「いや?知らないけど君のいた世界に移動するくらいは出来るよ。それじゃ行こうか!」
そして一瞬で周囲の景色や声が聞こえなったと思ったら目の前が真っ暗になる。もしかして気を失ったのか?痛みも上下の感覚さえも失ったハーラーは不思議そうに身を任せていると自分の肩を優しく抱える手のぬくもりで我に返る。
「おや?何かお忘れ物でも?」
同時に再びサンヌ王の執務室へ戻って来たのだから目を丸くするしかない。一体今の体験は何だったのだ?
「・・・・・ごめんハーラー。君の世界はもう消えて無くなってるみたいだ。」
「・・・え?」
更にヴァッツからよくわからない事を告げられたのだが自分はどう反応すればよいのだろう。私の世界が消えて無くなっている?ここが自分の知る世界ではないというのは少しだけわかるが・・・
「ヴァッツ?どういう事ですか?」
「うん。ハーラーのいた世界が消滅してた。たぶんあいつの仕業だと思うんだけど・・・オレ、全く気が付かなかったよ。」
「・・・ヴァッツ様、それは私がもう『ム=カマル』には戻れない、という事でしょうか?」
「そう、だね。ごめんね、期待させちゃって・・・」
その言葉からは確かな心苦しさが伝わってくるが自分が別世界に迷い込んだのだと理解出来ていないハーラーからすればどうでもよい事だ。最も大事なのは『ム=カマル』に戻れないという事実、ここだけなのだから。
「・・・で、では私はこれからどうやって生きて行けば・・・」
「言っておくがこれ以上『エンヴィ=トゥリア』に置いておくつもりはない。もし連行しないのであれば即処分だ。よいな?」
本当に初めてだった。ここまで自分の価値を蔑ろにされたのは。何の為に存在しているのか、今までの人生は何だったのか自問自答する気力も失せたハーラーの眼にもはや光は無い。
それでも体の力が抜けて、まるで水のようだった彼女をヴァッツが優しく優しく抱きかかえてくれているのを後からゆっくりと気付き始めるのだった。
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