恩義 -傾国と美女-③
恐らく状態が良くなかった。何の準備もなく突然屋外に放り出されていたかと思えばよくわからない蛮族の集落で一夜を過ごし、挙句大した食事も摂れずにここまでやってきたのだから肌や髪が荒れるのも当然だ。
「フラメン様、宜しくお願い致します。」
ならばまず王子の下で甲斐甲斐しく立ち回る部分を見せつけるしかあるまい。これで彼の評価を得つつ体調を整える。そこから二度目の謁見時にしっかり着飾れば今度こそ間違いなくサンヌ王を堕とせる筈だ。
「うむ。それではまず召使いの服に着替えてもらって・・・ああ、今来ている衣装だけは父も気になるそうだ。それだけは渡してもらうぞ?」
「は、はい。」
何だこの国は?!生身の人間より布の塊が気になるとはどういった神経をしている?!もしかしてかなり特殊な性癖を持っているのではないか?!でなければハーラーを前に心がときめかない訳がない!!
自分の存在を一切認めてもらえない彼女は最終的にそう思い込む事で己の惨めな環境を無理矢理飲み込む。慣れない質素な服と複数人が同居する相部屋はより矜持を削りにかかるが怒りと恥に身を任せてはいけない。
「ハーラー。あなた随分と手際や要領が悪いわね?以前どちらで働いておられたの?」
そして一日一日を何とか耐え忍んだ。同じ侍女達が平民か下級貴族の出自の為、相手にする利点はないのだが女の同調圧力を無視して過ごすのは危険すぎる。
「・・・とある国王の妃でした。」
「へぇ~?じゃあサンヌ様の御慈悲で拾われたんだ?でも侍女扱いなのは撮るに足らない小国の王妃だったって事かしら?普通なら妾くらいには落ち着きそうだしね?」
もし自分が再びそれ以上の地位に返り咲いた時はまずこいつらを全員嬲り殺してやる。何とか作り笑いで胡麻化しつつ胸中に憎悪の大火が燃え上がるのを必死に堪えていると今日は少しだけ国王に近づけるきっかけを得た。
それが愛妾の御世話だ。
基本的に彼女達もそれなりの権力を持っている為わざわざ好き好んで近づきたいと思う侍女などほとんど存在しないが、こちらは少しでも情報が欲しいのだ。聞いた事のない『エンヴィ=トゥリア』という国家の情報が。
「失礼します。」
侍女とは違い、与えられた部屋は豪奢で身に着けている衣装も華やかだ。ただ愛妾本人と相対すると意外過ぎて一瞬唖然としてしまった。何故なら彼女はどう見ても蛮族出身だとわかる見た目をしていたからだ。
「あら?新しい侍女の方ですね?」
「は、はい。ハーラーと申します・・・」
肌は黒く、手足こそ長かったが容姿として、美しさとして見れば絶対にハーラーの方が上の筈だ。なのにこれが愛妾で自分が侍女扱いなのは何故だ?
非常に納得の行かない現実に沸々と苛立ちが走るもここは我慢だ。教わった通り部屋の掃除に着替えの手伝い、衣装の洗濯などをこなすと愛妾はお茶に誘ってくれる。
まさかそういう事か?下々への慈悲深い行動がサンヌ王の心を射止めたのだろうか?確かに自分はあまりそういう部分に気を使ってこなかったがこれからは少し意識した方が良いのだろうか?『エンヴィ=トゥリア』では特に。
「ハーラーさんからは随分と気品を感じますね。もしや相当高名な出自の方でしょうか?」
「はい。元はとある国王の妃でした。」
「まぁ凄い!!あの、もし差し障りがなければそのお話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
いや、やはり馬鹿にされているのだろう。もし立場が逆なら元王妃などというほら話は鼻で笑って終わりだ。
この愛妾も付き合う素振りをみせつつ腹の中では見下して大笑いしてるに違いない。そう思うと今まで口八丁で生きてきたハーラーは生まれて初めての屈辱にほとんど言葉が出せなかった。
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