恩義 -傾国と美女-②
最悪、最悪だ。
少なくとも今身に着けている衣装はかなり上質な布で出来ており沢山の細工や装飾品も施してある。恐らく一定水準の文明を持つ街を歩けば男は全員振り返る程着飾っているというのに村人達は奇異の眼こそ向けるがそこに羨望はない。
用意された食事は辛うじて塩味を感じる事から調味料は知っているみたいだがこれ以上ここに滞在しては命や美貌がすり減ってしまう。
「ジャービル様、昨日のお話、謹んでお受けさせて頂きます。」
「おお?!そ、そうかそうか!!いや~助かる!!是非頼みますぞ!!」
国王の妾という話から『エンヴィ=トゥリア』ならもう少しマシな生活が出来るに違いない。ただそこだけに一縷の望みを懸けたハーラーはすぐに意思を伝えるとジャービルは子供のように喜んだ。
これこそ利害の一致というのだろう。初めて頼み事を受ける形にはなったものの、遂行するつもりなどさらさらなかった彼女は何度目かわからない作り笑いを浮かべると早速南へ向かう馬車へと乗せられる。
そして到着する前に見えた街や城の遠景を見て心を躍らせた。
この規模と街なら十分だ。十分に自分が立ち回れる筈だと確信を覚える。王城前で自身が献上品として扱われるような話が聞こえる以外に今の所不満はない。
あとは国王とやらに取り入って正妻の座を奪い、再び自分の贅沢を満喫しよう。そんな後ろ向きな野望を胸中で燃やしていると早速国王と王子らしき人物との謁見が許された。
「初めましてサンヌ様。私は『ム=カマル』から参りました、ハーラーと申します。必ずサンヌ様のお役に立ちますので、どうか御傍に仕える事をお許し下さい。」
旅路も含めると既に一週間以上経過していた為、折角の衣装も少し汚れてしまっていたが鍛え抜かれた気品に立ち居振る舞いは必ず目に留まる筈だ。
そう信じて疑わなかったハーラーは魅惑の作り微笑を浮かべて見せると思った通り、サンヌはこちらをとても興味深そうに見つめてくる。
「・・・・・フラメン。お前の侍女にでもしてやるがよい。私は仕事に戻る。」
ところがこれまた今までにない反応をされて思わず声を漏らしてしまう。やはり衣装の汚れで美貌を十分に引き出せなかったか、それともあり合わせで仕上げた化粧に問題があったのか。
「お、お待ちくださいサンヌ様。わ、私は是非高名な貴方様にお仕えしたいのです。どうか・・・」
ならばここは女を十二分に使うしかあるまい。悲痛でありながら決して耳障りだと受け取られないよう細心の注意を払って叫ぶと不安な表情に瞳を潤ませる。更に跪いた状態から見上げるような姿勢に揺るがない男などいないのだ。
「ふむ。しかしそなたは別世界、ウラヴィ大陸からやってきたのだろう?しかもこちらに迷い込んできてさほど時間も経っていない。にも拘らず何故私が高名だと思うのかね?」
「そ、それはこの国を見ればわかります!とても広大な領土に賑わう城下町、これはサンヌ様の御威光がなせる業です!」
別世界という言葉に少し引っかかったもののここは迷う場面ではない。見た所まだまだ健在な国王にこそ取り入るべきだという本能に従って懇願すると隣にいる王子と顔を見合わせている。
「・・・ならばこうしよう。フラメン、お前から見て国王に仕えるに相応しいと思えば教えてくれ。その時にまた改めて謁見を許す。」
どうやらサンヌには相当美しい伴侶か愛人が存在するらしい。でなければハーラーの儚い演技に心を打たれない筈がないのだ。
しかし数多の男と関係を持ってきた経験からここが引き時だとも感じるでの彼女はあえてしおらしく、そして弁えている部分を嫌味にならない程度に強調して居住まいを正すと心の中で自己採点を始めるのだった。
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