恩義 -傾国と美女-①
ウラヴィ大陸から人が迷い込んでいたのは今に始まった事ではない。時期や場所、人物次第では生き延びる事すら出来ずに朽ち果てて行った者もいくらか存在する。
そんな中、何の力も持たないハーラーは運が良いのか悪いのか、『ジャデイ』近隣に迷い込むと村人達から武器を向けられたまま完全に包囲されていた。
「お、お願いします!!な、何でもしますから!!どうか命だけはお助け下さい!!」
確か強王ムチャカに取り入って周辺国から金銀財宝を巻き上げていた筈なのに一体何がどうなっているのだ?およそハーラーの美しさや価値を見出せない蛮族じみた連中を相手に必死で命乞いをすると、手荒ながら縛られて連行される。
そして少し小柄ではあるものの妙な雰囲気を纏った老人の前に連れて来られるとすぐに察した。間違いない、彼こそがこの集落の長なのだろう。
これは彼女が様々な強い者に取り入って来た経験からわかるのだ。集団を率いる者、武勇に優れている者、知に秀でた者などは話さずとも見れば判断出来る。
「初めまして、私はハーラーと申します。許可なく貴方様の国土に土足で踏み入った事を心より深くお詫び申し上げます。」
となるとやるべき事は1つしかない。自身が唯一持つ美貌という武器が通じるかどうかはわからないが、まずは落ち着いた様子で挨拶と謝罪を行う。非力な彼女はこうやって誰かに取り入る事で生き延びてきたのだ。それはこれからも、どこに行っても変わらないだろう。
「ハーラー・・・・・うむ?お主、もしかするとウラヴィ大陸で悪名高い、あのハーラーか?」
ところが今回は様々な予想外が重なったのでついこちらも演技を忘れて驚愕してしまった。まさか文明の程度が低い蛮族達が自分の事を知っているとは。しかも悪名高いとまで言われると思わず顔も引きつってしまうというものだ。
「悪名・・・ですか。確かに私は様々な殿方に嫁いでいますが、それは偏に美貌や品性を評価され、強くご所望されるが故なのです。決して私の意思ではございません。」
つまりハーラーが美しく、品のある女性だから男達が放っておかないんだよ?といつも使う定型文を持ち出すが彼らから理解は得られるだろうか?
初めて陥った状況に不安を隠しつつ様子を見守っていると老人はこちらを品定めするかのようにじっくりと観察してくる。その視線に欲情はなく、だからこそ余計に不気味だったハーラーはまるで蛇に睨まれた蛙のように大人しくしていると相手も納得したのか、一瞬だけ目を伏せると静かに口を開いた。
「つまりお主は一般的に男が求める容姿をしておる、という事じゃな?」
「は、はい。恐らく・・・」
「では命を助けてやる代わりに1つ頼み事を引き受けてはくれぬか?」
何やら話はおかしな方向へ進んでいく。今まで散々男に媚を売ってきたハーラーは星の数ほど頼み事はしてきたもののされた覚えはないのだ。その辺りをこの老人は理解しているのだろうか?
「・・・と、申されますと?」
「うむ。この集落の南に『エンヴィ=トゥリア』という国がある。そこで国王の妾となっておるわしの孫娘ハフィに集落へ戻る様説得してもらえんか?お主は己の美貌とやらに大層自信がある様じゃからな。かの国王に見初められるのも訳が無いじゃろ?」
しかも頼み事の内容はとても酷いものだ。まさかあらゆる国の要人に取り入って来たハーラーに子供のお使いみたいな真似をさせようというのだから青筋が薄っすらと浮き出てしまう。
「ええっと・・・すみません。私はこの地が何処なのかもわからない状態でして・・・まずは体を休める時間と場所を提供して頂けませんか?その間に考えを整理したいと思います。」
「まぁ他所から迷い込んできたのはわしらも同じじゃからな。ゆっくりするとええ。」
恐らく殺されたり食べられたりする心配はない筈だ。事実も交えて提案するとジャービルと呼ばれる長老はすんなりとこちらの要望に応えてくれる。
それにしても他所から迷い込んだとはどういう意味だ?
その言葉の意味もわからないまま馬小屋にも似た場所に案内されたハーラーは作り笑顔を張り付けた状態で恭しく礼を告げると今までにない屈辱の中、無理矢理眠りについた。
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