恩義 -主君-③
「あの男はお前が主と認めるに相応しい仕事をしてきたという事じゃな。であればワシもあ奴を王に推戴した甲斐があるというものじゃ。がっはっは!!」
ヴァッツの祖父であり『天族』の王女姉妹を娘に持つスラヴォフィルとはこういう男なのだろう。ワミールの告白に憤怒や落胆、驚愕でもなく歓喜で受け入れられるのは正に器の違いだ。
しかし彼の懐の広さを目の当たりにしたからといって傍にいる人間がすぐ習える訳でも納得出来る訳でもない。
「あのぉ・・・ワミール様、流石にガゼルとスラヴォフィル様を同列のように語るのは失礼が過ぎませんか?」
決してどちらかの肩を持つつもりはない筈だ。それでも二心がスラヴォフィルとガゼルを指しているとなればハルカでさえ彼の正気を疑うかの表情で尋ねてしまっていた。
「はい。ですがガゼル王は誰よりも『ボラムス』にその人生を捧げて来られました。財政に余裕が出てきても決して贅に走る事無く、それらを周囲と国の為だけにしかお使いになりません。」
本来ならそれが当たり前なのだが、その当たり前が出来ない者は多い。だからこそワミールはあえて取り上げたのだろう。
「彼の使命感はスラヴォフィル様に通ずるものがあります。そして今のままではきっと体力が尽きてしまうでしょう。そんな苦労を少しでも分かち合う為に、支える為に私は彼と共に働きたいと思うようになったのです。」
中々に信じられない告白だがスラヴォフィルの命令とはいえ、ずっと傀儡王の傍で仕えていたが故に共生から芽生えた二心という訳か。
それでもハルカはいまだに信じられないといった様子だったのだがルサナは別の問題が気になっていた。
「・・・でもそれならクレイス様の王位継承に反対される必要はなくないですか?」
彼が本心で全てを吐露したとして、そこにこの話が関わってくる理由だけはわからない。何故だ?何故ワミールはクレイスは素晴らしい国王になると認めているのに反対しているのだ?
「確かに私がこんな体たらくでなければ喜んで従っていたでしょう。しかしガゼル王への忠誠が芽生えてしまった今、例えクレイス様が玉座に就かれても忠誠心は割れたままになってしまう。これでは申し訳が立ちません。」
何という実直で融通の利かない性格なのだ。
つまり二心という自分を偽った嘘により反対せざるを得なかったという事か。しかし今回、ガゼルに指摘された事でそれを諦めた。忠誠心を一つに戻す為に。
だからスラヴォフィルが健在である今こそ、不忠の罪を命をもって償う事で全てを清算してしまおうと考えているらしい。
確かに自分で置き換えた場合、クレイス以外の誰かを同じくらい好きになったらどうする?
俗っぽい言葉を使えば二股、それ以上の関係や好意を抱くと三つや四つにもなってくる。もちろん世の中にはそういう人間もいるがその性格は自分に甘いと言わざるを得ない。
ワミールのように自分に厳しく真面目な人間はそれを許容出来ないのだ。ガゼルが『嘘』という言葉で伝えてきたのも、その忠誠心に僅かな綻びがあるのを感じていたからだ。
では彼の希望に沿ってこの場で首をはねた方が良いのだろうか?クレイスの次期国王に反対していた事も忘れて考えているとスラヴォフィルは既に答えを導き出していたらしい。
「ならばこうするしかあるまい。ワミールよ。お前を『ボラムス』の将軍に任命する。これで二心の件は解決じゃ。」
「し、しかしそれでは・・・」
「お前の気持ちは十分理解出来る。じゃがその命をそんなくだらぬ理由で散らすのはあまりにも惜しい。それにワシも王位を譲った後はまた地上で1人の民として暮らすつもりなんじゃ。互いに新たな道を歩もうではないか。」
だが最後に意外な告白を聞くと理解が追い付かないルサナはただただ目を丸くし、ハルカはワミールと共に驚愕の表情を浮かべたまま固まっていた。
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