恩義 -主君-①
スラヴォフィルはセイラムからアルヴィーヌとイルフォシアを預けられるまで王族でも国王でもなかった。
来るべき未曽有の危機に備える為に友人であるザラールを頼り、天空城に小さな国家『トリスト』を築き上げたのが全ての始まりだ。
『孤高』と呼ばれる彼らの威光は人々を集めるのに十分だった。一人で一軍をも上回る力を持つと謳われた2人が国王や宰相になるのだからその国が強国へと成長するのは確約されていたに等しい。
話を聞いた人間は誰しもがそこで暮らす事を望んだという。
だがスラヴォフィルの目的はセイラムの教えに備える事だった。つまり彼らの庇護を一方的に享受しようとする人間は適さないのだ。
少なくとも国王に、国家に命を預ける。
来るべき未曽有の危機を国王と共に退けるという強い意志がなければ共に暮らし、歩むことを許されなかった。そしてそれは今も形を変えて続いていた。
「珍しいな。火急の用事が無ければ動かぬお前が赴くとは・・・もしや『ボラムス』で何かあったのか?」
相変わらずセヴァの傍を離れようとしないスラヴォフィルが不思議そうに声をかけた後、ワミールという人物を良く知っているからだろう。不吉な予感から真剣な面持ちを浮かべると彼も強張った表情を返した。
「はい。実はお願いしたい事がございまして参上いたしました。スラヴォフィル様、今ここで私を斬り捨てて頂けませんか?」
「「えぇっ?!」」
聞き間違いでなければルサナとハルカは想定していた真逆の発言を耳にしたはずだ。だから驚いて声を上げてしまったのだが小さかったもののそこにはスラヴォフィル自身の声も重なっていたらしい。
「・・・・・詳しく聞こう。」
「はい。私を『ハル』という取るに足らない小国で見つけて育てて下さった大恩は死んでも忘れないとあの日誓いました。ところが今の私は・・・」
初めて聞いたワミールの出自に少しだけ目を丸くするが問題はその先だ。何故そのような無茶を言い出したのか。悠久とも呼べる間、その答えを待っていると彼の口が再び開く。
「・・・私が貴方の御子を手に掛ける前に、クレイス様を暗殺する前に是非、貴方の手で私の命を刈り取って頂きたい。どうか・・・」
やっぱりそうなのか。
説得を忘れていた事はさておき、彼の忠誠心は言葉のままなのだろう。自身の王はスラヴォフィル以外を認めない。だからその他の可能性を排除しようと目論んでいるのだ。
ただ『ボラムス』での話し合いで多少冷静さを取り戻したのか、最終的に彼へ仕え続けるのが難しいと判断した結果、主君の手で引導を渡してもらおうと考えたらしい。
「・・・・・ふ~む。ルサナとハルカ、お前達はどう思う?」
「「えっ?!」」
しかし肝心のスラヴォフィルからそういった気配はなく、とても落ち着いた様子でこちらに尋ねてきたので2人は顔を見合わせる。それから少しするとまずはハルカが率直な意見を述べ始めた。
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