恩義 -姦しい諜報-①
『リングストン』の犯罪組織を束ねていた長ジェリーマと『ウラヴィ大陸』でテイロンが所属していた犯罪組織『ジェリーマ』。
同じ名前が使われていたという事は彼もまた迷い込んできたのかもしれないという推察は容易に立つ。だが投獄されて以降全く情報を漏らさなかったのと本当の姿を誰も知らなかった事から彼がファーンだと認識される事無く事件は幕を下ろす。
それよりも今は『トリスト』の人間にとって、特にクレイスに近しい人間にとっては早急に解決せねばならない問題が残っていた。それが彼の王位継承に反対する者の特定と説得だ。
いくらスラヴォフィルが指名しているとはいえ、これを怠れば将来国が割れる可能性、もしくはクレイスに危害が及ぶ可能性もある。
「ハルカちゃんごめんね?ノーヴァラットがどうしても気になるらしくって・・・もちろん私もね?」
「いいっていいって。『気まぐれ屋』で働いている時以外は暇だしね?でもクレイスの王位に反対する人か~・・・想像つかないわね?」
ノーヴァラットもチュチュから詳しい話を聞き出そうと問い詰めたそうだが不穏に感じるだけだからと決して教えてくれないらしい。そこで個としての強さを持ち、尚且つ過去に『エンヴィ=トゥリア』で見せた隠密行動の経験からルサナに白羽の矢が立ったのだ。
ただあの時にはハルカも一緒だった。そして今の『暗闇夜天』は諜報活動も行っている為是非ご一緒してもらおうという形で話がまとまり、今に至る。
「私も城内だけなら隅から隅まで走り回ってみたんだけど皆いい人なのよね。反対しそうな人なんて絶対いないと思うんだけど・・・」
「ふっふっふ~!甘いわね!!人って言うのは普段とは違う、本音をさらけ出す時っていうのがあるのよ?!その場面を抑えられればきっと何か見つかる筈よ!!」
「・・・・・なるほど~!」
因みに今回の作戦はクレイスには知らされていない。というのも余計な心配を掛けたくないのと彼とは無関係のまま調べた方が、もしボロが出ても責任を追及される可能性が低くなると考えたからだ。
ところがそんな心配を忘れてしまう程城内での活動は何一つ成果を得られないまま一週間が過ぎていた。
「・・・おかしいわね。チュチュの発言に含みがあったのって勘違いじゃないの?」
「う~ん・・・ノーヴァラットも彼女には随分気を許してるみたいだしそういう事もある、のかな?」
あまりにも普段と変わらない、むしろスラヴォフィルの御子誕生や『リングストン』の犯罪組織撲滅の話題で国内からは明るい雰囲気しか感じない。
もしかしてそれらの活躍によって反対勢力も納得したのだろうか。不思議で仕方のなかった2人は部屋で緊急会議を開くも答えは見いだせない。
「・・・よし!こうなったらもう破れかぶれよ!直接チュチュに問い質しましょ!!」
なので最後は『暗闇夜天』という組織の元頭領とは思えぬ直情的な意見が飛び出したのだがルサナも直感で行動する性格なのでそれを止めるという発想には至らない。
「いいわね!!行きましょう!!」
むしろ嬉しそうに同意すると2人は隠密行動という言葉も忘れて足早に将軍の部屋へ向かった。
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