クレイスの憂鬱 -王と王-㉑
「ショウ、私達は『リングストン』の官人全てを疑ってかからねばならない。しかし一気に改革を進めると国務が回らなくなる。そうでしょ?」
「はい、仰る通りです。」
「更に他国とのつながりも持っているとすれば影響は計り知れないわ。そこでタッシール様、彼らを少しずつ調べて正道に戻していく、という方法で進めません?」
「・・・へ?え?」
こういう場合、やはり能力の差が顕著に表れるのだろう。既に帰国後の立ち回りを考えているアンに対してタッシールは未だ驚愕と落胆から立ち直れていない。
ただ彼のそういった態度から犯罪組織に関わっていないのだという前向きな情報も得られる事から『リングストン』にもまだまだ改善出来る余地は残っている筈だ。
「だってそうでしょ?犯罪組織の上に立つ組織が『リングストン』の官人達によって作られていた理由なんて1つしかないんだし。」
「そ、それは一体?!」
「決まってるでしょ。独裁者から己の身を護る為、後は私腹を肥やす為かしら?」
「間違いないかと。」
ショウも母親のように慕う彼女が相変わらず聡明なのが嬉しいのだろう。満面の笑みで相槌を打つと参加している中からも納得といった様子の人物がちらほらと現れ始める。
「なるほどのぅ。つまりネヴラディンのように苛烈な者が王だと財政がすぐに枯渇してしまう。そこで秘密裏に動ける組織、言わば裏の国家だな。それを発足して財政の一部を隠していたという訳か。」
「私もそう思います。でないと現在の『リングストン』が生き残れる筈もありません。」
メラーヴィの発言に同意しつつアンが説明してくれるとクレイスも大いに納得がいく。彼女が傾いた『リングストン』へ入り、速やかに財政確保の法案を通したとしても財源が無ければ成り立たない。
なのに何故か相当な資源が集まった事に疑問を抱いていたようなのだ。
「一般的な国家であれば個々が蓄えていたとしても別段おかしくはありません。ただ、独裁国家に仕える官人が何故これ程の私財を保有出来ていたのか。ショウの話がその答えなのでしょう。」
つまり王の眼に届かないように、もしくは王が見て見ぬふりをしていた中で彼らも別の力を蓄えていた訳だ。自国だけでなく、他国をも巻き込む程の組織を作ってまで。
「・・・つまり私にどうしろと仰りたいのですか?」
しかし当事者以外には、特に『神族』であり最近この世界に舞い降りたイェ=イレィには随分と退屈な内容だったらしい。ヴァッツがこの場にいない事も拍車をかけたのだろう。
彼女だけが少しつまらなそうな表情で口を挟んでくると隣に座るフロウが苦々しいといった様子で睨みつけている。
「はい。もし『リングストン』と関わりのある犯罪者を発見した場合は速やかに捕らえて頂きたいのです。私達は少しずつでもこの裏組織も壊滅していきたい。如何ですか?」
そうしなければ『リングストン』に本当の安寧は訪れない。その為に今回は関わりの有無に関係なく周辺の国々を集めたのだ。
「わかった。私も同族が作った酒が違法に扱われるのは我慢ならんのでな。喜んで協力しよう。」
そして当事者の中でも強く気持ちが動いていたのはフロウだったらしい。やや怒りを内包した了承にクレイスも危険な雰囲気を察したが彼は『悪魔族』という種族以上に冷静な存在なので無茶はすまい。
「もちろん私達も協力をしよう。しかし我が国から民が攫われていたとは・・・確かに海を越えてしまえば母国に戻るのは難しいか。」
クスィーヴも帰国後には早速国内の警備を強化する旨を約束すると会談も閉幕に向かう。
「・・・私も、国内を一度精査せねばなるまい。」
だが唯一関りがとても深いネヴラティークだけは覚悟が落胆を上回る事はなく、全く覇気のない様子で退室していく姿に一抹の不安を覚えるのだった。
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