クレイスの憂鬱 -王と王-⑳
「おうクレイス!お前も会う度に見違えるな。」
用意された大会議場にはガゼルはもちろん『ネ=ウィン』のナイルや『シャリーゼ』のモレスト、ネヴラティークにガビアム、『リングストン』のタッシールはアンと共に出席しており
西の大陸からクスィーヴやメラーヴィにウォランサ、新興国『エンヴィ=トゥリア』の王子フラメンに獅子王ファヌル、『モ=カ=ダス』の神王イェ=イレィに悪魔王フロウ、『モクトウ』からはテキセイまでもが姿を見せていた。
「皆様、この度は遠路はるばるお集まりいただきありがとうございます。では早速『リングストン』に巣食っていた犯罪組織の件についてご説明させていただきます。」
といっても既に概要は全員が周知している。なのでショウはそこを簡潔に済ませると最も重要な部分で一呼吸置いた。
「・・・さて、実は犯罪組織を束ねる長ジェリーマが未だに黙秘を貫いております。そして彼らの扱う物資の流れに不明な点が多い。つまりこの犯罪組織は私達が思うより早くから国内外の人間や組織と深く関わっていた可能性があります。」
ショウも相変わらず人が悪い。この内容はクレイスも初耳だった為、他国の人間と同じように驚愕を浮かべていると彼が笑みを浮かべていたので狙い通りなのだろう。
それが分かった以上こちらも反撃せねばなるまい。今度はわかりやすく不機嫌そうな表情を作ってみせたのだが会談はショウの思惑通りに進む。
「まず彼らが取り扱っていた物の1つに『酒』があります。この内容を調べた所どうやら彼らは他国へ卸された物を横流していたようです。」
「ほう?」
これに反応したのは当然その市場を広く有する悪魔王フロウだ。彼はクレイスと『魔族』の王バーンによって生産、酒造方法を学んだ為、販路はこちらに委任しているので下手な相手には卸していない。
なのに犯罪組織の倉庫からはそれらが大量に見つかった事からショウも違和感を覚えていたらしい。
「そして『麻薬』の原料ですが、これは主に『ジグラト』から採れる植物が利用されています。『人身売買』で扱われていた人間は『ダブラム』や『フォンディーナ』、『ジョーロン』出身の方が多いそうです。」
更に衝撃の事実をすらすらと並べ始めると当事者たちの顔色が見事な七変化を見せた。だがショウはわざわざ彼らの機嫌を損ねる為に公表している訳ではない。
つまりジェリーマの犯罪組織の規模についてしっかりと認知してもらう為にあえてこの場を設けたのだ。
「・・・・・私や国民は『リングストン』から亡命した身だからな。つながりを疑われるのは仕方がないとは思うが・・・しかし我が領土でそのようなものが栽培、されているのか?」
その中でも特にネヴラティークは動揺を隠せないようだ。祖国を飛び出して新たな新天地で頑張っていたにも拘らず、その祖国が足を引っ張ってきているのだから当然だろう。
だがここまではあくまで序章に過ぎない。ジェリーマが深く根を張っていた場所はあくまで『リングストン』であり、何故彼がその中で検挙される事無く巨大な組織を作り上げていったのか。
「はい。これらの事実から私の憶測は確信に変わりました。タッシール様、どうやら『リングストン』では国家に仕える者達が犯罪組織と内通、もしくは犯罪組織を運営していたようです。」
「なっ?!なにぃぃぃ?!」
「・・・そこまで驚かれる事はないでしょ?だってコーサさんも言ってたじゃない?代々大将軍に仕えてきた裏の暗殺組織から接触があったって。彼は断ったそうだけどそういった組織の維持は国家の力無しじゃ不可能よ?」
どうやらアンには心当たりがあったらしい。隣で驚くタッシールを静かに諭すと彼もすぐに落ち着きを取り戻した後、何度か頷いて見せる。
「ただ、私の調べた所その組織は相当に大きいようです。まぁ『リングストン』を短期間で混乱させた犯罪組織を擁しているのですから当然ですが。」
「・・・そ、それはどれくらいだ?」
「恐らく『リングストン』の国務に携わるほとんどの人間が関与しているのではないでしょうか?」
さらりととんでもない事を発言したショウにタッシールだけでなく全員の視線が集まる。一体いつからだ?何故そんな事になっているのだ?理解が追い付かないクレイスはただただ会談の流れに身を任せているとそれを収束させるべくアンが静かに席を立った。
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