クレイスの憂鬱 -王と王-⑱
「何だ?奇襲も失敗か?」
あれだけわかりやすく空に停滞していたのだから見抜かれていたのは仕方がない。だが一撃すら放てなかったのは想定外であり、己の力量不足を痛感するはめになったクレイスは悔しさで顔を歪ませる。
「・・・みたいだな。流石はヴァッツだ。劣化版でもかなわねぇとは、やっぱすげぇ奴なんだな。」
ところがカズキは全く気にしていない様子で刀を納めるとショウも闘気と小剣を仕舞う。
「ふむ。では私は失礼する。出来れば二度と私や組織についての詮索は止めてもらいたいが・・・面白くもあった。気が向けばまた相手をしてやっても良いぞ?」
完全に勝敗が決したのだからジェリーマの余裕も当然だろう。これで彼の正体は何もつかめないまま終わってしまうのか。体中の力が抜けたクレイスだけが後悔を浮かべているとショウがこちらに近づいてきてヴァッツの耳元で何かを囁く。
「・・・うんっ!!わかったっ!!」
そしてクレイスの体から腕を放すと同時に右手をジェリーマにかざした瞬間、遂に彼の本来の姿が顕現したので周囲も驚いて声を漏らしていた。
「・・・・・むっ?!こ、これは・・・っ?!」
「悪いなジェリーマ、お前の変化する能力も凄いが本物のヴァッツはちょっと比べ物にならないくらい凄いんだわ。つか4人を相手にするって言ってただろ?何で最も注意すべきヴァッツに気を配らなかったんだ?」
これこそが4人の戦いである切り札、ヴァッツによって相手の力を奪ってしまおう、だ。
彼の性格上、戦い自体に消極的なのは3人もよくよく理解している。だからもしクレイスの攻撃が届かなかった場合はこれで決着を付けようという話で作戦はまとまっていたのだ。
しかしカズキも人が悪い。もし最後まで警戒していたとしてもこの力を前には抗う術などないだろうに。
「ば、馬鹿な・・・変身が出来ない・・・だと?!な、何故だ?!」
「ごめんね。それ、オレが消しちゃった。」
更に悪びれる様子はありながらも軽すぎる謝罪はジェリーマの心を打ち砕くのに十分だった。先程までの余裕はなくなり、やっと本人が皆の前に姿を現すとショウなどはじっくり観察してから感嘆の溜息を漏らしている。
「ヴァッツの姿の印象が強すぎて意外でした。結局貴方がジェリーマなのですね?それともカーテルとお呼びすればよいですか?」
「・・・ぅ、うるさぁいっ!!おいっ!!今すぐ私の力を戻せっ!!」
「えぇ?!そ、それは無理だよ?またオレに化けられたら嫌だもん!!」
普段から慈悲深いヴァッツでさえ拒絶する程、変身される事には嫌悪感を抱いていたらしい。当然と言えば当然なのだが意外な反応に3人は顔を見合わせた後大らかに笑い合う。
それとは裏腹にジェリーマからは一切の余裕が消え、焦りを爆発させているのは本当に窮地だと痛感しているからだろう。最強の鎧を剝がされた彼には勝ち目どころか逃げ場すらない。
「さて、やっと本題に入れますね。早速ですが『リングストン』に巣食う犯罪組織の全容について詳しく教えて頂けますか?それとも私達の誰かが貴方にわかりやすい一撃を加えてからの方がよろしいですか?」
なのに冷酷な左宰相は己の責務を全うすべく行動を始めるとカズキもいやらしい笑みを浮かべつつ彼を拘束、もしくはその一撃を加えられる間合いに入ったのでジェリーマはやっと諦めたのか、不機嫌に黙秘を貫くのだった。
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