クレイスの憂鬱 -王と王-⑰
魔術はとても強力なのだが1つだけ弱点がある。それが魔力の枯渇だ。
しかしヴァッツに化けたジェリーマに攻撃を当てるにはそんなものを気にしていられない。一瞬の隙に全力を注いでも届く保証はどこにもないのだから。
「うし。待たせたな。それじゃ始める前に確認しておきたいんだがお前、最初に言ったよな?『4人全員を相手にしても良い』って。」
「・・・なるほど。相談していたのはそういう事か。ああ、そうだ。今の私にはそれ程の力が宿っている。」
ヴァッツの力を擁しているのだからその自信も頷ける。ただしそのやり取りの途中でヴァッツがわかりやすく両手を上げて見せるとジェリーマはまたも不気味な笑顔を浮かべて見せた。
「それじゃ決まりだな。行くぜ、お前ら!!」
互いに了承したと受け取ったのだろう。カズキの合図とともにクレイスは上空に、ショウも珍しく懐から小剣を取り出して構えつつ間合いを詰めていくと訓練場には妙な緊張感が走り始めた。
刹那的だが恐らくとんでもない衝突が起こる。誰もがそう信じて疑わない中、地上にいる2人は囮とばれないようにしっかりと攻撃を放っていく。
あとはクレイスがどう動くか。
出来れば速度を稼ぐ為に高度を取りたい所だがあまり遠いとジェリーマに嗅ぎつかれるだろう。だからこそ敢えて逆にぎりぎりの高さで様子を見る事にする。瞬間的に魔力を爆発させて一気に落下、攻撃が放てる高さで。
(・・・・・それでもきついなぁ・・・・・)
未だに自分の限界を知らない為、どれ程の速度になるのかはわからない。それでも全力を出せるのは地上でヴァッツが受け止めてくれる約束だからだ。
今回の作戦としてヴァッツが戦わずに参加するにはどうすればよいかという大きな課題があった。そこでカズキは魔術の欠点を補う方向で提案し、ヴァッツとショウも大いに納得する事でこの作戦が決行されたのだ。
一先ずこれで落下や地上への激突を気にする必要はない。後はクレイスの覚悟次第なのだがやはりジェリーマの動きには相当な余裕が感じられる。
ヴァッツの劣化版とはいえこの差は厳しい。
クレイスは何か癖や予備動作がないかと必死に動きを読む中、もしやと感じたのは後方へ下がる時の動きだ。これは人体の仕組みから見ても当然なのだが破格の体を扱っていても後ろへの移動時にはもたつくものらしい。
(・・・・・ここだっ!!!)
ならば行くしかあるまい。
ジェリーマが攻撃を躱す為に後方へ下がろうとした時を見計らって全魔力を注ぐとその速度と光景が過去の自分と重なった。
それは『アデルハイド』と『トリスト』から国外追放を受けていた頃、初めてルサナと戦った時に『闇を統べる者』の力を借りた時と同じだったようだ。
まさか独力でその境地に立てるとは。嬉しさのあまり思わず声を上げそうになったが残念な事にクレイスの力はそれだけで終わってしまう。
「おっと!!」
何故なら他が全く追い付かなかったからだ。早く落下は出来たもののジェリーマへ剣を振り下ろすどころか自身の速度に視覚も追い付かなかった。
結果、気が付くとヴァッツにがっちり受け止められており、カズキとショウも唖然とした表情で視線を向けて来るしかなかった。
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