クレイスの憂鬱 -王と王-⑮
「・・・・・な、なんだ、と?!」
カズキとクレイスは必死だった為、その言葉の真意をすぐに理解は出来なかったが普通なら絶命必死の攻撃を前後から受けたジェリーマはヴァッツが見せない表情を浮かべてよろめく。
何故ならその体には浅いながらも2人の魂が籠った強烈な一閃がしっかりと走っていたからだ。
「・・・ほう?いける、のか?」
やはり破格の力を完全再現する等不可能なのだろう。それは辛うじて手傷を負わす事に成功したという形からも読み取れる。
「ジェリーマの攻撃は当たらないみたいだけどこっちの攻撃は通用するんだね・・・よし、いこうカズキ!!」
「調子に、乗るなよっ?!」
いくら上手く変化した所で所詮は劣化版だ。眼にも止まらぬ動きでこちらに拳や蹴りを繰り出そうともジェリーマの攻撃で手傷を負う心配はなく、対してこちらは相手に強力な一撃を当てる事だけに全力を注げばよい。
そう思って己を鼓舞したのだがカズキはすぐに待ったをかける。何故なら今の一撃はジェリーマの油断によって生まれたものだからだ。
回避に専念されればあの速さだ、体力だけを消耗してこちらの分が悪くなっていくだろう。かといってジェリーマも2人を無力化する術は持ち合わせていないので3人は再び膠着状態に入るとそこに本物の破格から声が掛かってきた。
「ねぇジェリーマ、もう諦めたら?」
「・・・戯言を。お前達は私を捕まえられないのだぞ?諦める必要がどこにある?」
確かにクレイス達だけでは難しいがこの戦いにヴァッツが加われば話は別だ。彼もジェリーマが犯罪組織の全てを束ねる長でありこの場で捕らえなければならない事くらいは理解している。
だからこれ以上の無駄なやり取りに終止符を打つ為に介入したのだとショウが耳打ちしている姿からも伺えた。
「・・・クレイス、カズキ、後はオレに任せてもらっていい?」
「駄目だ。」
なのにカズキが戦闘狂の悪い一面を覗かせた事で見護っていた周囲の衛兵達もが目を丸くして言葉を失う。
「ええ?!で、でもこのままじゃ2人の攻撃は絶対当たらないよ?!ジェリーマの攻撃も当たらないだろうけど・・・」
「それでも差は圧倒的じゃない。だから・・・おいジェリーマ、1つ提案がある。」
「何だ?言ってみろ。」
「今から放つ攻撃が当たらなかったら見逃してやる。ただし、もし当たった場合は洗い浚い全てを吐け。いいな?」
「「えっ?!」」
彼がそういうのだから恐らく算段はあるのだろう。しかしここまでの戦いで不可能だと考えていたクレイスとショウは驚愕の声を漏らすもジェリーマはヴァッツらしからぬいやらしい笑みを浮かべて軽く頷いた。
「いいだろう。ちなみに・・・私から攻撃しても構わんのだろう?」
「当然だ。こいつは戦いだからな。」
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