クレイスの憂鬱 -王と王-⑭
「どうした?私の事を知りたいのだろう?力尽くで情報を聞き出すのだろう?突っ立ったままでは何も得られんぞ?」
本当に攻撃を加えて良いのか。見た目がヴァッツそのままなのも影響して動けずにいるとジェリーマはとても楽しそうに挑発を繰り返す。
しかし迷いが生じているクレイスと違って、あれ程戦いを望んでいたカズキが仕掛けないのは意外だ。
「・・・俺達が知りたいのはお前の力だからな。お前こそ口だけじゃなく体を動かしてみろよ。本当にヴァッツの強さまで真似出来てるのか確かめてやる。」
(おお~!!やるじゃない!!)
どうやら彼も成長しているようだ。今のやり取りから戦闘狂という汚名を返上してもよいのではと思えたクレイスはつい歓喜で表情が緩んでしまった。
ところが仕掛けない事こそが戦闘狂の真骨頂だったらしい。
もしジェリーマがヴァッツの力を十全に扱えるとなればこちらの攻撃は全く通用しないだろう。つまり攻撃を放つだけ無駄に体力を消耗するだけでなく隙まで見せてしまう。
だからカズキは先にジェリーマを動かしたいのだ。それに反撃を合わせる事で自身の負担を最小限に抑える為に。
「やれやれ。では瞬きせずに刮目するんだぞ?大将軍ヴァッツの力をな!!」
勘違いでなければアーへラを助けた時のように、ヴァッツに化けたジェリーマの拳は届く前に止まるだろう。だが確証と呼べるものではなく、当たってしまった場合は何が起こるのか想像もつかない。
そもそも彼の動きを追う事が出来るか?
緊張感から一気に喉の渇きを感じたクレイスはジェリーマの作った拳を、全身をしっかり捉えていたのだがそれは一瞬で消え去り、カズキの眼前で止まった、らしい。
「・・・やっぱすげぇな。ヴァッツじゃなきゃこの一撃で死んでたぞ。」
「・・・・・わかっているではないか。」
その力は圧倒的だがやはり相手に危害を加えるのも不可能だという事か?カズキを殺さない理由が思い浮かばないクレイスも何となく現状を理解すると今度は戦闘狂がわかりやすい殺気を全力で放ったではないか。
「うっし。それじゃ今度はこっちの番だ。クレイス、いくぞ!!」
「・・・うんっ!!」
更にクレイスの名を呼んでくれた事でこちらの闘志も一気に燃え上がる。敵が親友の姿形をしている為少しだけ気が引けるが間違いなくこの世界で最強の相手に不足はない。
迷わず長剣を抜いたクレイスは水の魔剣を重ねるとそれにありったけの魔力を注ぐ。これが自分の中で強度も威力も最も高い武器の筈だ。
そしてカズキの方は家宝ではなく腰の刀で斬りかかる事を選んだらしい。
素早く柄を握って腰をひねりつつ抜刀を完了させるとまるで大地と同化するかのように力強く踏み込み、ヴァッツの右肩へ袈裟懸けの形で振り下ろしたのでこちらは背後から腹部を背面から真横に薙ぎ払う。
これで倒す事が出来ればそれはそれでよい。犯罪組織の頂点がいなくなるのだから。
だが2人の攻撃はクレイスの願いや想像とは違う結末を迎えると、周囲には少し遅れて驚愕の声が響き渡った。
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