クレイスの憂鬱 -王と王-⑪
「ぃい気持ちでしょぉ?ぁたしが配合したとってぉきなのぉ!!もぅこれ無しじゃ生きていけない体になれるのよぉぉ?!」
「て、てめぇぇ?!」
「ま、待ってカズキッ!!」
そんな危険なものに近づくのは例え猛者でも危ない。そう感じたクレイスは慌てて止めると同時に風の魔術を展開して窓をすべて破壊した後、部屋の大換気を行う。
念の為自分も少しの間息を止めていたが間に合っただろうか。目に見えない脅威に不安を覚えつつ出来得る限りの対策を取ってはみたものの床に倒れたヴァッツに動きは見られない。
「・・・やってくれましたね?」
「きゃしゃしゃしゃしゃっ!!おバカねぇぇぇ?!でも若さ故よねぇぇぇ?!いいじゃなぃ!!これからぁたしの『麻薬』で楽しぃぃ人生が約束されたんだからぁ!!きぃっと後からいぃっぱい感謝する事になると思うわぁ!!」
まさか最も頼りになる友人が倒れるとは。近づけるのかどうかはショウも判断に迷っているのだろう。想定外の膠着状態が生まれるとマッドメンは勝ち誇った様子で自分の拘束を解くように促してくる。
ところがそこで3人は気が付いた。
「・・・『闇を統べる者』様、ヴァッツの具合は如何なのでしょう?」
そう、彼が倒れているにも拘らず『闇を統べる者』の力は健在なのだ。更に彼が取り乱す様子もなかった事からショウも冷静に尋ねてみるといつもの声が鳴り響く。
【さて?具合・・・と聞かれても困るな。私はヴァッツではないのでな。】
「そ、そうですか。」
「な、何々ぃ?今の声わぁ・・・ど、どこから聞こえてきたのぉ?」
しかし彼もこんな状況に陥った事はないのか、心配というよりやや困惑している雰囲気を感じ取ると3人は顔を見合わせる。
「・・・ヴァッツ~?大丈夫?」
そしてクレイスが代表して再び声をかけてみるとヴァッツの手指が少しだけ反応した後、何事もなかったかのように上半身を起こしたのでこちらは安堵を、マッドメンは強い驚愕を覚えたらしい。
「あ~・・・ぅん。大丈夫、ではないけど・・・これは危ないねぇ。」
「ぇえぇ?あ、危なくないわよぉ?!ほ、ほら!!もう一回吸ってみてぇ?!」
こいつ、また『麻薬』を吸引させるつもりか?!クレイスは再び風の魔術を展開しようと魔力を練り上げるが今度はヴァッツ自身がしっかり対応してみせる。
「これって・・・薬の原料だよね?それをこんな風に使うのか~。う~ん?怪我してる訳でも病気でもないのに?不思議な事を考えるんだね?」
といってもマッドメンの手から『麻薬』を取り上げた後自らの鼻に近づけてくんくんと臭っているのだから開いた口が塞がらない。ただし先程と違い毒される事はなく、むしろその正体について語るとショウも感心した様子で頷いていた。
「それは興味深い。ヴァッツ、ついでに彼の持つ『麻薬』を全て取り上げておいて下さい。後で私も調べてみます。」
「うん!それじゃこれは没収ね?ていうかもう二度と使っちゃ駄目だよ?頭がおかしくなっちゃう。」
「へぇっ?!あっ?!ぁ、ぁたしのとっておき達が?!いつの間にぃ?!」
一度倒れた時はどうなるかと思ったがヴァッツの手に大量の『麻薬』が握られている姿からもう心配はいらないだろう。
ただしマッドメンもジェリーマの情報に関しては口を割らず、というより終始本当に知らないといった様子からショウも速やかに影へ落とすよう伝えるといよいよ『暗殺』の長を尋ねる為に一行は都市長の邸宅を後にするのだった。
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