クレイスの憂鬱 -王と王-⑧
「実はあの場所で教諭をしている女性が犯罪組織『人身売買』の長でして。その動きを調べていたのです。」
突然の情報に最も驚いたのは他でもないクレイスだ。確かに会合の場で出会った女性の長アンナースは『人身売買』を統括している筈だがそんな人物が学び舎に出入りしているというのか。
「教諭って事は実際働いてるのか。不思議な話だな。つまり二足の草鞋って訳か?」
「はい。子供達と直接干渉出来る立場を犯罪に利用しているようです。裏と表で確たる立場も得ている、これは組織が相当手広く根を張っていると見て良いでしょう。」
「・・・アーヘラさんの言っていた事が現実味を帯びてるね。組織を壊滅した所でまた次の組織が立ち上がるって。ショウ、これを根絶するのって可能なの?」
「ここまで拡散しているとなると相当難しいですね。」
他にも暗殺組織の長や酒を扱う長などもがっつり国の機関と結びついている為、完全に除去するのは彼の知恵をもってしても不可能に近いと言う。
「だからアーヘラさんを利用する訳ですけどね。」
「え?そうなの?」
そういった理由からも諜報活動の一環だと思っていたあの説得には別の意味があったらしい。他の2人も初めて聞く話に小首を傾げていたのでショウは改めて説明するとカズキは深く頷いた。
「なるほど。今回の作戦は今ある犯罪組織を一掃した後、新たに生まれて来るであろう犯罪者や組織の受け皿までも考えてるって事か。」
「そうです。『売春』は国にもよりますが法で制定される程に一般的ですからね。そういった意味でも彼を利用すべきだと思っています。」
つまりアーへラの界隈だけは暗黙の了解で目を瞑り、より危険な『暗殺』や『麻薬』といった他の犯罪だけを厳しく取り締まる事で犯罪組織を抑制、縮小する形を落としどころに考えているそうだ。
「その為にもまずはジェリーマの率いる既存の組織を壊滅せねばなりません。もちろん関わりの深い長達は全員厳しく処断します・・・よろしいですね?ヴァッツ?」
「えっと・・・うん!よくわかんないけどわかった!!」
厳しい処断については今詳しく伝えるとヴァッツが尻込みし兼ねないのでショウもそこで話を終えたのだろう。
「うし。それじゃ・・・基本的には捕らえる方向でいいんだな?ジェリーマはどうする?加減出来る相手とは思えんが。」
「それについては私に策があります。」
相手が『トリスト』の存在に気が付いた以上、ここからは時間との勝負になる。カズキがその辺りも含めて議題を持ち出すとショウが皆のよく知る悪い笑みを浮かべたのでクレイスは思わず一安心してしまった。
(やっぱり本物はこうでなくっちゃね。)
「ほう?どういう内容だ?」
「はい。相手の情報や力量から考えるに長引かせるのはこちらが不利です。ですので・・・しばらくは4人で行動しましょう。」
しかしその作戦内容は彼らしくなかったので一瞬カズキと顔を見合わせるが彼もクレイスの身を危険に晒す訳にはいかない事を深く理解しているのだ。
「他の長がどこにいるかは見当がついています。そこに4人で乗り込んで捕らえた後ヴァッツ、正確には『闇を統べる者』様の御力でそのまま『リングストン』王城地下にある牢屋まで運んでもらいましょう。」
「・・・おいおい。それだと俺の出番は無くねぇか?」
「大丈夫。脱獄されないようしっかり痛めつけて下さい。それが貴方の役目です。」
「ええええ?!い、痛めつけるの?!そ、それは何だかやだなぁ・・・影の中に閉じ込めておくだけじゃ駄目?」
そうなるとクレイスの出番も無さそうだ。ヴァッツが申し訳なさそうに提案するので再びカズキと顔を見合わせるがショウはそれで構わないと笑顔で頷いたので仕方なく従う事を選ぶのだった。
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