クレイスの憂鬱 -王と王-⑥
「・・・待て待て。クレイス、と言ったな?お前の正体はその・・・いや、聞くのは止めておこう。とにかく犯罪組織を壊滅した所で『リングストン』の状況は変わらんぞ?」
「何故ですか?」
組織側の、しかも『売春』を束ねる長の発言に少女達がわかりやすい不快感と軽蔑の眼差しを向けるがアーへラも慣れているのだろう。気にすることなくクレイスの素朴な疑問に答えてくれる。
「既にこの国では様々な嗜好品、娯楽が蔓延しているからだ。それは犯罪を犯してでも手に入れたいと思われる程にな。だからわしらがいなくなった所で必ず誰かが新しい組織を立ち上げるだろう。」
「でしたら見せしめに貴方達を引き裂いた後、各地で晒し上げるしかありませんね。二度とそのような娯楽や嗜好品が蔓延らないように。」
何ともイルフォシアらしい過激な提案に思わず周囲は顔を引きつらせるがこれはおかしな事ではない。実際犯罪者を厳しく取り締まる為には法を犯した者の末路を知らしめておかないと刑罰の甘さから犯罪に手を染める者が出てくるからだ。
「んじゃ早速あなたからやっちゃおうか?」
「先程から黙って聞いて居れば・・・小娘どもに後れを取るわしではないぞっ?!」
「アーヘラさん、あなたの力ではここにいる誰にも勝てません。ルサナも挑発しないで。」
最終的に止めに入ったクレイスの言葉が最も刺さったのか、買い言葉を放とうとするもルサナが大人しく引き下がる様子を見てアーヘラも大人の対応を見せる。
「しかし一度見た人間に化けられる、というのは相当厄介ですね。もし現在のクレイス様に変化されたら私達でも対応が難しいですし。」
「何よりその姿で余計な行動を起こされると悪評に繋がるわ。クレイス、ジェリーマっていう奴がどう動くのかわからないけど私はヴァッツ様をお呼びしてくる。いいわね?」
「わかった。頼んだよ、ノーヴァラット。」
本当なら独力で解決したい所だが拘るとまた周囲から強い反発が返ってくるだろう。それにイルフォシアの言う通りクレイスの姿に化けて悪巧みをされると大変な事になりかねない。
「そういえばショウは?一人で諜報活動してるって話は聞いたけど今どこにいるの?」
「それが僕にもわからないんだ。アーヘラさんの護衛を任されたからそれに従ってはいたんだけどウンディーネ達にも報告は届いてないんだよね?」
彼の事だから下手を打ったりはしていないだろうがジェリーマの能力を考えると心配だ。組織の頂点に立つ男がクレイスの前に立ちはだかった事からも猶予はそれほどないだろう。
「よし、それじゃ僕はサニアに戻るよ。皆はここで待ってて・・・」
「「何を仰っているのですか?!」」
なのでクレイスは再び副都市へ出向く事を告げるとそこにイルフォシアとルサナが仲良く声を重ねて待ったをかけてくる。だが今回ばかりはこちらも折れるつもりはない。
「言っておくけど今回の任務に皆を連れて行くつもりはないからね?各組織の長とも会ったけどあれらを相手にするのは危険すぎる。」
「お言葉ですがクレイス様、私達も戦力としてこの作戦に参加しているのです。特に貴方は時折無茶な行動をしがちなのですから引き留める役であり妻である私の同行くらいは許可するべきかと。」
「イルフォシアが妻を名乗るのは置いといて!私も一度は奴隷を経験した身です!犯罪組織がどういった思考で動くのか、ある程度推測と対策を立てられると思います!」
「じゃあ私は残ってのんびりしておこうかな。夫の帰りを待つのも妻の務めでしょ?」
そして三者三様の意見が並ぶと彼女達の中で勝敗が決したのか、ウンディーネの勝ち誇った笑顔とは裏腹にイルフォシアとルサナは恨めしそうだ。
「ほらほら。2人もウンディーネを見習って、ね?大丈夫、無茶はしないよ。僕にはやらなければならないことがあるんだ。」
ならばこの状況を利用しない手はない。説得の為に彼女の話を取り上げると2人から反論する気配は完全に消え去った。
「・・・・・わかりました。でしたら私にも考えがあります。ルサナ、少しクレイス様を引き留めておいてください。」
しかしただで転ばないのがイルフォシアだ。珍しくルサナに協力を求めると翼を顕現させて空を飛んで行く。
それからしばらくするとノーヴァラットやヴァッツを担いだアルヴィーヌと同時に戻って来たのだが彼女もまた最終兵器とも呼べる人材を連れてきてしまった。
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