クレイスの憂鬱 -王と王-⑤
ヴァッツを相手に戦うとはこういう事なのか。
かなりの魔力を注いだにも拘らず土の大盾は彼の拳を全く殺せていなかったらしい。ただ回避が間に合った事で僅かな疑問と推論を得る事が出来た。
「・・・ア、アミール・・・お、お前は一体・・・」
その隣で担ぎ上げたアーへラが声を震わせていたが今は後回しだ。もしかするとヴァッツの体に化けてその力を得たとしても、彼が普段から心掛けている人を傷つけないという意思も宿っているのではないか?
でないと今の一撃は躱せなかった筈だ。それを確かめようと周囲の雑音を忘れて真剣に考えるが護衛対象が傍にいたままでは流石に行動までは起こせない。
「・・・ジェリーマ、今度その体に化けたら・・・全力で殺すからね?」
「ふははははっ!!面白い冗談だ!!やってみるがよい。」
元々ヴァッツは空が飛べないので追撃は諦めたのか、それともさっきの一撃でジェリーマも相手に手傷を負わす事は叶わないと理解したのか。互いが捨て台詞を吐くような形で戦いは幕を下ろすとクレイスはそのまま最初の村へと飛び去る。
そして用意されていた家の前にそっと降りるとアーへラと中に入ってすぐに詰問した。
「アーへラさん、ジェリーマって何者ですか?」
「わ、わしもよくわからん!!滅多に姿を現さないと言っただろう?本当に謎が多いんだ・・・しかし他人に化けるとは思わなかった。」
その慌てっぷりからするに本当のようだ。更に彼から見限られたのが堪えているのか、少しだけ肩を落とす様子を見せるがすぐにこちらを睨みつけてくる。
「それよりお前だ!!一体何者だ?!空を飛ぶ存在など魔術師くらいしかいない筈だぞ?!それにあの赤毛をショウと言っていたな?!あとジェリーマはお前の事をクレイスと言っていた!!全て教えて貰おうか?!」
あまりにも緊迫していてすっかり忘れていたが奴とのやり取りで正体を全て明かしていたらしい。今度はこちらが目を泳がせるとトドのような体で迫ってくるので更に顔を背ける。
そしてこの家の周囲で待機していた人物達が窓の外から様子を窺っていたのだろう。
「ちょっとそこの醜い御方、クレイス様に何たる態度ですか?今すぐ処してもよいのですよ?」
「賛成賛成!!でもただ殺すのは駄目ね?!私が目いっぱい痛めつけてやりますよ!!」
「あのねぇ、あなた達いい加減淑女らしさを身に付けたらどうなの?クレイス、少し連絡が途絶えてたけど大丈夫だった?」
「見た所ショウがいないわね。クレイス、その豚って恐らくアーヘラよね?ちょっと今までの報告をお願いしてもいいかしら?」
直接参加させるのを見合わせていた為この地でずっと待機していたイルフォシア達は、溜まっていた鬱憤を晴らすが如く口を開いて屋内に突入してきたのでアーへラもただただ目を丸くしている。
「ごめんごめん。僕も訳が分からない戦いだったからまだ整理がついてないんだ。アーヘラさん、紹介しますね。こちらはイルフォシア、ルサナ、ウンディーネにノーヴァラット。そして僕の名前はクレイスです。」
こうなるともはや正体を隠す意味はない。ここからはより深い話し合いを望んでいたクレイスは素直に自分達の名前を教えるがアーヘラは理解が追い付かないまま未だ固まっている。
だがせっかちな彼女達はトドのような体を無理矢理引っ張って椅子に座らせてから報告をせがんでくるのでクレイスも一瞬だけ苦笑を浮かべた後、ジェリーマとの戦いを説明した。
「・・・そんな、ショウ様やヴァッツ様に化けるなんて・・・」
「しかも強さも真似出来るんでしょ?ショウ様はともかくヴァッツ様ってどれくらい強いんだろ?」
「あ、あいつと対面してよく生きて帰って来れたわね?クレイス、もう危険だからこの先はそれこそ本人に任せて私達は帰ろ?」
「何言ってるの。ここでクレイスが問題を解決する事で『トリスト』の国内外にその名を認めさせる事が出来るのよ。ヴァッツ様を呼ぶ事には賛成だけど貴方が退くのは駄目ね。」
この騒がしい雰囲気も久しぶりな気がする。話の内容も忘れてつい笑顔でその様子を眺めていると彼女達の訴えに全く危機感を覚えていないのがばれたらしい。4人が鋭い眼光を向けて来たのでやっと我に返ったクレイスは軽く咳払いをしてみせる。
「えーっとね。僕はこの手で奴を討ち取りたいし、組織の壊滅も継続して行う。だから皆も力を貸して欲しい。どうかな?」
こういう場面で惚れた弱みとクレイスの頑固な性格が足を引っ張るのだろう。4人は顔を見合わせてから諦めた様子で渋々頷いてくれたのだがやっと意識が戻って来たアーヘラはそこに口を挟んできた。
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