クレイスの憂鬱 -王と王-③
もうこの街にはいられないか。全ての侵入者を追っ払ったクレイスは拠点の移動を持ち掛けようと思ったがそうなるとショウとはぐれてしまうかもしれない。
「・・・アーヘラさん。ここまで来たら諦めて詳細を教えて貰えませんか?この先貴方は組織に狙われ続ける。かといって僕もずっと側近を務める訳にはいきませんので。」
なので一番手っ取り早い方法で任務を達成出来ないか、現状を踏まえて説得してみるがアーヘラは据わった双眸でこちらを睨んできた。
「・・・いいや、まだだ。ジェリーマは話の分かる男だからな。きっと挽回の余地は残されている筈だ。」
何が彼をそこまで妄信させているのだろう。不思議に思って尋ねてみると、どうやら過去にリリーの所属していた組織が壊滅した時も長にお咎めが無かったというのだ。
「でもその時はカーテルさんに懸賞金などは懸けられていなかったのでしょう?アーへラさんの状態とはだいぶ違う気はしますが。」
「・・・・・それでも裏切るつもりはない。しかし喉が渇いたな。水を用意して貰えるか?」
『売春』という仕事に手を染めていなければその姿勢には一定の評価が出来るかもしれない。何とも惜しい気がしてならないクレイスは毒に警戒しつつどこから調達すべきか考えると不意にまた侵入者が現れる。
「おや?まだここにおられたのですね?」
「あ、ショ、サウィース?」
「き、貴様っ!!よくもぬけぬけと戻って来たな?!貴様のせいでわしはえらい目にあっとるんだぞ?!」
今回の内部抗争を引き起こした本人は何事もなかったかのようにしれっと2人の前に姿を現したのでアーヘラも怒りを爆発させていたが全く意に介さない様子だ。
「ふむ?何のことかわかりませんが・・・お水をご所望でしたね。さぁどうぞ。」
それよりも強い違和感を覚えたのには理由がある。姿形は確かにショウなのだが何かが違う・・・その答えに行きつくのに時間はかからなかったが疑問を払拭する材料を持ち合わせていなかったので言葉が出てこなかったのだ。
「・・・待って。その水、サウィースが飲んでみてよ?」
「うん?」
2人はアンの側近だと知っているからこそアーヘラは意外な提案にきょとんとするしかないといった様子だがショウは違う。
水の入った杯を渡そうとしたまま右手はぴたりと止まり、無表情からは彼が何を考えているのか全く読めない。ただクレイスの言った意味は理解しているのだろう。だから動けずにいたのだ。
「どうしたの?何も無ければ飲めるよね?まさか毒でも盛ってたりする?」
「・・・アミール、貴方は私を疑っているのですか?アーヘラは組織の裏切り者です。ここで死んでも誰も困らないでしょう?」
声も間違いなくショウのものなのに何故彼が偽物だと気が付けたのだろう。それがわからないまま彼をじっと観察していると少しの違和感に大きな驚愕が心中を走り抜けた。これが事実なのか?であればどういった原理なのだろう?
「うううん。アーへラさんには組織の情報提供をお願いしたいからね。死んでもらったら困るよ。僕が護衛についているのもその為、でしょ?」
「・・・アミール、さっきからこの男がサウィースではないと言いたげではないか?どういう事だ?」
アーへラは決して愚鈍ではないのだ。何故か警戒しているクレイスを見て静かに尋ねてきたのでこちらも冷静に言葉を選ぶ。
「・・・彼はサウィースではありません。それだけはわかるのですが・・・恐らく犯罪組織の人間ですね?暗殺者か何かですか?」
とにかく彼とこれ以上距離を近づける訳にはいかないので思い切って直接問い質してみるがその表情や気配は相変わらずショウのままだ。
「・・・・・流石だな、クレイス。まさか私の術を見破るとは。」
そして声もショウのままであったにも拘らず自身がショウではないと認めた男はやっと彼が見せた事のない言葉遣いを披露してくれるのだった。
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