クレイスの憂鬱 -王と王-②
元々独裁国家『リングストン』には十分な土壌が出来上がっていたのだ。恐怖と畏怖で国民を支配するという土壌が。
彼らは母国から逃げ出すという選択肢や身近に感じる事の出来ない権力とは一体何なのかを理解する事もなく、配給品と与えられた仕事をこなして日々を生き繋ぐ。
つまり国を支配する連中が誰であろうと構わないのだ。思考を奪われた彼らにとっては生きていければ何でもよい。ほとんどの国民がそう思っていた筈だ。
だから犯罪組織が用意した娯楽に染まるのも早かったのだろう。
辛うじて認められていた『煙草』も配給品であり数に限りがあった。ところが今ではその配給品や出回り始めた貨幣を使ってそれ以上の質と量を得る事が出来る。
すると労働意欲など無きに等しかった彼らはそれを完全に投げ捨てて欲望に突っ走るのだ。交換出来る物資が無くなれば盗み、奪って治安は悪化の一途を辿り、それはまさに犯罪組織の思う壺だという事もわからずに。
「お、お前だな?!アーヘラっていう賞金首は?!」
「な、何っ?!」
元々低い道徳心しか持ち合わせていなかった彼らは犯罪組織が懸賞金をかけると当然のようにそれを追ってくる。もちろん詳細な情報開示もしてあるのでクレイス達が戻ってすぐに殺気だった人々が集まってきたのだから
アーヘラは混乱しっぱなしだ。
「生死は問わないらしいからな!!やっちまえ!!」
「俺が最初に見つけたんだ!!お前らはどっかいけっ!!」
これを民度というのだろうか。クレイスも己が標的になってないとはいえ暴徒と化している国民を前に胸中は落胆と愕然で一杯だ。
アーヘラの首にどれ程の賞金がかけられているのかわからないが他人の命を奪う事に戸惑いがない彼らの眼は濁りきっている。しかしこれこそが犯罪者の本質なのだろう。
街が、国が犯罪に侵されるとはこういう事なのだ。法が蔑ろにされ、己の欲望のみを追求していけば必ず国家は傾き、消え去ってしまう。
「すみませんがアーへラさんは僕の護衛対象です。怪我をしたくなかったら大人しく引き下がってください。」
「ア、アミール・・・お、お前という男は・・・」
そうさせたくないからこそクレイスは諜報活動とは切り替えて彼を護るよう動いた。『リングストン』はまだ間に合う筈だと信じて。
「おい若ぇの!怪我をしたくなかったら大人しくそいつよこせ!!俺には金が必要なんだ!!」
「渡さねぇってんなら力尽くで奪うまでよ!!」
「どうぞ。しかし僕達に危害を加える連中には容赦しませんよ?」
そんな挑発じみた言葉も目先の欲に囚われている暴徒には届かないようだ。玄関や勝手口、窓からさえ侵入してくる連中を察知するとクレイスは仕方なく風の魔術で全員を吹き飛ばした。
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