クレイスの憂鬱 -王の号令-⑭
アンが教えてくれた犯罪組織の数は大きく6つ。『暗殺』『麻薬』『賭博』『人身売買』『酒』『売春』だ。
この中だと『酒』の取り扱い方が気になるところだが詳しくは壊滅させてから調べれば良いだろう。
とにかく率先すべきは『麻薬』なのだ。これにより『リングストン』人だけでなく、周辺国にすら中毒症状に侵されかねない危機が迫っているのだから出来る限り急がねば。
だが焦る訳にもいかず、クレイスは慎重を肝に銘じて会合に挑もうと決意したのにまたもアーヘラが余計な行動をみせたので気持ちは一気にうんざりに塗りつぶされた。
「アミール、今日集まる長達は座る場所も決まってるでな。今から教えるのでしっかりと覚えておくのだぞ。」
「・・・・・よろしいのですか?」
といってもこれは好機に違いないのだ。各々の組織をまとめる長が集まる場に参加できるだけでなく、その顔と名前まで教えてもらえるのであれば是が非でも入手せねばなるまい。
「ぐっふっふ。それを知った所で何も出来まいて。それに今はわしの側近なのだから、お前が組織の人間を把握しておかなければ教育不足を詰められてしまうだろ?」
しかし彼なりの思惑もあるようだ。その意見には思わず心の底から頷くと2人は早速会合が開かれるであろう旅館の一室に足を踏み入れた。
そこは当然とも言うべきか、まだ誰も入室していなかったがアーヘラは末席に椅子が壊れそうな勢いで腰を下ろすと指をさして各席に座るであろう人物の紹介を始める。
「上座にはわしらを束ねる長ジェリーマが座る、筈だがほとんど姿を現さないのでな。恐らく今回も出向いては来ないだろう。」
それから唯一名前を憶えていた人物が最も重要だと判明するも、容姿の情報が何一つ得られなかったのにはがっかりだ。ただ他の面々はよくやり取りをしているのか、とてもすらすらと解説してくれる。
「上座の左右に座るのは『暗殺』組織の長カーテルと『麻薬』組織の長マッドメン、ジェリーマがあまり表に出ないんでな。実質この2人が取り仕切っておるよ。」
カーテルは自身も腕が立つ為クレイスが見ればすぐに分かるとのことだ。ちなみにマッドメンはこれまた自身が麻薬中毒者なので観ればすぐに分かる程壊れているらしい。
後は順番に『賭博』の長ハークートゥ、『酒』の長マハム、『人身売買』の長はアンナースと言い唯一の女性だそうだ。
(・・・もしかして相当大規模な組織形態なんじゃ・・・)
クレイスの中で犯罪者といえば真っ先にガゼルが思い浮かぶ。彼のように賊徒で十数人を率いて悪さをする。そんな印象だったのにアーヘラの説明だと彼らは相当な統率と指揮下の下に活動しているようだ。
「後はどういった内容の話し合いになるのかわしにもわからんが・・・お前なら簡単に乗り越えられるだろう?」
「・・・軽く言ってくれますね。」
出来る事なら長を全員縛り上げて組織の詳細を洗い浚い問い詰めたい所だが未だショウが動きを見せない所をみるとそれは得策ではないのだろう。
であればと仕方なく覚悟を決めたクレイスはその一瞬だけ本当の側近として勤めるよう嫌々気合を入れて、他の長達が集まるのを静かに待つのだった。
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