クレイスの憂鬱 -王の号令-⑨
「では早速寝室へ行こうか。アイムビー、結果は追って連絡する。今日は下がってよいぞ。」
責任者の言葉にアイムビーも退室するとクレイス達は隣の部屋へと案内される。そこに大きな寝台がある事から彼はいつもここで味見とやらをしているのだろう。
彼もただ欲望の為に行動する訳ではないらしい。2人を先に湯浴みするよう促すとその間に書類を用意していたようだ。
「さて、まずお前がアミールで赤毛の方がサウィースと。容姿もそうだが背丈もかなり高いな。隻眼と顔の傷も気になるところだが・・・まぁこれはこれで特徴になるか。」
一応浴室内ではショウがしばらく任せて欲しいと伝えてきたので責任者の質問に受け答えしつつ様子を窺っているといよいよその時がやってきた。
「では衣服を脱いで見せてくれ。」
その言葉に体が硬直するクレイスとは対照的にショウはさも当然のように上着を脱いだので再び唖然とする。確かに彼を信じてはいるもののどこまで許すつもりだ?
「ほう?若く細身でありながらしっかりとした筋肉が見えるな・・・貴様、何者だ?」
「おや?妙な雰囲気を感じてはいましたが流石は組織の責任者、抜け目がありませんね。」
「えっ?」
ところがトドのような男から警戒と殺意が放たれるとショウも普段通りの雰囲気に戻り、相手は椅子の背面にあった小剣を素早く構えたではないか。
「といっても我々は大した者ではありませんよ。ほんの少し『リングストン』の犯罪組織を調べたいだけです。」
目まぐるしく変わる状況にクレイスはどうすればいいのかわからず、2人のやり取りを黙って見守るしかない。ただそこまで打ち明けたという事はこれ以上相手の要望に応える必要はなくなったのだろうと静かに安堵する。
「・・・国家に携わっていたと言っていたがそうか。中央の回し者だな?で、わしらに近づいた目的は何だ?」
「はい。是非貴方と商談をしたいと思います。もし断ればこの場で処断します。よろしいですね?」
なのにショウが突然商談という名の脅迫をしてしまうのだから2人は違った意味の驚愕の表情を浮かべて固まった。一体彼はここからどう落としどころに持っていこうというのか。
「ぐほほっ!随分威勢がいいではないか。しかしわしの手には小剣があり、とある力を授かっているので見た目以上の強さを保持しておるぞ?大丈夫か?今ならまだ矛を収めてやらんでもないぞ?」
そして相手もこういった状況には慣れていないのか、わざわざ言わなくても良い情報が漏れてくるとクレイスはショウと顔を見合わせた。
「では試しに見せて頂けますか?その力とやらを。」
「ええぇぇ・・・だ、大丈夫かな?僕でも抑えきれない可能性はあるよ?」
「その時は退却しましょう。お願いしますね?」
どうやらクレイスも諜報員として潜り込むのに折れた理由はこの辺りにもあるようだ。如何にも彼らしいと思わず笑みを零すが確かに犯罪組織の幹部がどの程度の力を持っているのか興味はある。
「じゃあかかってきてもらえますか?その・・・えっと、お名前は?」
「・・・わしはアーヘラだ。死ぬ前にこの名をしっかり刻むがよい。」
そういってアーヘラはゆっくり立ち上がってこちらに構えて見せたのだがその後大した力量ではないと判断したクレイスはすぐに組み伏せてしまうのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。
あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
https://twitter.com/@yoshioka_garyu




