クレイスの憂鬱 -王の号令-⑤
「お前ら見慣れない顔だな。どこからやって来たんだ?」
クレイス達は用意された家に向かう途中、村人に声を掛けられると顔を見合わせてから打合せ通りの受け答えをする。
「『リヤマーヴ領』のワヘイドです。村がごろつきだらけになったので逃げてきたんです。」
「おお~そうかそうか。それは大変だったな。泊るところもないんだろ?よかったらうちに来るか?」
実際犯罪者に支配された村から移住してくるという話は山ほど転がっている為、相手は疑いもしないがこちらは別だ。ショウもどんな形であれ何か誘いを受ければそのまま犯罪組織に繋がっているだろうと語っていた。
(・・・・・まさかもう僕達の正体がばれたのかな?)
それにしても早すぎる。真偽はわからないがとにかく彼の誘いを受けると周囲の家屋より一際大きな建物に案内された。
「この部屋を自由に使ってくれ。管理人は出入口の詰め所にいるマスクルって奴だ。わからない事は彼に聞くといいよ。」
しかし様々な疑問を感じる前に二階の部屋へ案内されたクレイス達は村人が立ち去ると何よりも急いで窓を開ける。
「ぷはっ!ショウ!これってやっぱり『煙草』の臭いかな?!」
「恐らくそうでしょう。まさかこんなに臭いとは・・・よくこれを好んで吸えますね。いや、中毒に陥る原因がこの臭さなのかも・・・?」
アンの情報では『煙草』を直接吸引しない限り大きな影響はないという事らしいがこれ程臭いと簡単に呼吸が乱れてしまう。クレイスはもしもの時を考えて風の魔術で換気出来ないかと模索しているとすぐに犯罪組織らしい動きが見られた。
こんこんこん
「はい。どうぞ。」
休む間もなく部屋に訪れてきたのは先ほどと違う村人と女性だ。
2人はここがどういった場所なのか未だにわからない為少し驚いた様子で顔を見合わせていたのだが答えは相手の口から告げられる。
「確かアミールとサウィースだったな。ここに寝泊まりする代わりにこの女の相手をしてやってくれないか?日が暮れるまででいいからさ。頼んだぞ。」
「「・・・・・」」
なるほど。つまりここは『売春宿』という事らしい。そして自分達は女性を悦ばせる労働者として招き入れられたようだ。
「あの、よろしくお願いします。いっぱい楽しませて下さいね。」
良かった。相手が犯罪組織だからとイルフォシア達の参加を強く止めて本当に良かった。心の底から安堵していたクレイスは女性の嬉しそうな眼差しや雰囲気から既に逃避していたのだがショウの方は何かを思いついたらしい。
「貴女のお名前は?」
「私はアルスと申します。」
「ふむ、恋人・・・いえ、ご結婚をされていますね?」
「はい。ですが夫も別の場所で若い娘に現を抜かしておりますので・・・だったら私も若い雄達に求められたいじゃありませんか。」
何故そんな問答が始まったのか。聞きたくもない内容に耳と心を塞いでいると冷酷な左宰相は強い眼光を放ちながら静かに年上のアルスへ迫るのだった。
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