クレイスの憂鬱 -王の号令-②
「ご、ごめんな・・・みっともない事になっちまって・・・」
目に隈を作ったシーヴァルは弱弱しく謝ってくるがカーディアンは全く気にしていない。
「いいのよ。ほら、紅茶を入れたから飲みなさい。」
というのも彼もまた自分と同じ人間なのだと強く理解出来た事でより親近感が湧いたからだ。
カーディアンは物心の付く年頃に『ユリアン教』へ奉公に、いや、身売りされた。そこで彼らの宗教観を刷り込まれると他者を憎み、蔑むようになっていく。
もしあの国で何も知らないまま生きていればきっと今も他者を見下すだけの人生を送っていただろうが、ユリアンが崩御してしまった事により彼女は様々な物事を考える機会を得た。
その中の一つに人間の弱さ、そしてそれをどう克服するかという主題があった。
カーディアンからみれば『バーン教』や『セイラム教』という二大宗教にすがるのも酒や女に溺れる者と何ら大差ない。
人は弱いのだ。だから自分も『ユリアン教』に依存して生きてきた。シーヴァルも薄汚れた自分に溺れてしまったのは弱さ故なのだろう。
だが1つだけ大きな問題があった。それは好意が純粋で真っすぐ過ぎた事だ。これがカーディアンの荒み切った心にあら塩を擦り込まれるような感覚に陥らせる。
最初は流しておけば勝手に諦めるだろうと無視を決め込んでいたのだがこの青年は大きな失恋をした後だったらしく、カーディアンが大層魅力的に見えてしまっているらしい。
それがとても苦痛なのだ。
自分は優しすぎる彼に愛されて良い存在ではない。だから依存しないで欲しい。貴方の情熱を受け止めてくれる女性はきっと他にいるはずだから。
そんな冷めきったカーディアンは無理矢理同棲生活を始めた後も心からシーヴァルを求める事も、気にかける事もなかった。
ところが僥倖は突然舞い降りる。あれ程仕事熱心で優しかった彼が『リングストン』から購入したという『煙草』により強制的に依存先が変わったのだ。
その言動は酔っ払いより酷く、手足を震えさせて呂律が回らない姿は普段あまり感情を表に出さないカーディアンも目を丸くしたほどだ。
「うぅぅ・・・くそぅ・・・体の震えが止まらない・・・これじゃぁいざっていう時戦えないじゃないか・・・」
いつも格好をつけてカーディアンの為に尽くしてくれる優しいシーヴァルの姿は影も形もない。だからこそ喜びを大いに感じてしまった。今まで眩しかった存在が自分と同じ立ち位置へ堕ちてきたのだという錯覚を覚えて。
冷や汗と青ざめた顔からは『煙草』の依存効果を必死に堪えているのが窺える。無意識の欲望からそれを求めてしまう心が透けて見えるとカーディアンは得も言われぬ笑みを浮かべてしまう。
「はいはい。お仕事はしっかり完治してからね。」
しかし彼女は肝心な部分を見落としていた。何故弱り切ったシーヴァルにこれ程心を動かされるのかという点を。
自分の中では幼少の頃に植え付けられた他者を蔑む嗜虐性からだと判断していたようだがそうではない。今まであった負い目という壁が無くなった事でやっと対等になれたと勘違いしているだけなのだ。
しかし歪なきっかけではあるものの、やっとカーディアンが心の底から気にかけてくれていると感じたシーヴァルは禁断症状に苦しみながらもその優しさに十分甘える様子を見せる。すると彼女も久しぶりの満足感から2人の心は思いの外、距離を縮めるのだった。
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