クレイスの憂鬱 -王の号令-①
腐った林檎と揶揄される存在は昔から存在していた。それらは1個でも混じると集団を腐食していく。だから早期に取り除くべきだという認識も昔と変わらないのだ。
ところが『リングストン』はその判断を見誤った。正確には少し躊躇した、対応が遅れてしまったのだがそれによりファーンの放った犯罪組織はあっという間に行動範囲を拡大してしまった。
「遅ぇぞアン!!」
その異変にいち早く気が付き、速やかに行動を起こしたのは他でもない『ボラムス』の傀儡王ガゼルだ。
「ガゼル。いくら貴方が王とはいえアン様を呼び捨てにする等許されるものではありません。直ちに訂正して下さい。」
「いいのよショウ。これは確かに私達の、私の落ち度なの。まさか『リングストン』に巣食う犯罪組織がここまでだったなんて・・・完全に見誤っていたわ。」
謁見などというまどろっこしい挨拶を抜きに2人が彼の執務室でいきなり怒号を受けたのには理由があった。それは麻薬が国外に出回ってしまった事だ。
「ったく!お前がいながらなんてざまだ!!お陰でこっちはシーヴァルがおかしな事になっちまったんだぞ?!」
話によると『リングストン』が新生して以降、周辺の国境線で起きていた小競り合いは一切なくなったそうだがそれと代わるように様々な物資を売りつける売人が現れたという。
そして彼らの扱う『煙草』をつい服用してしまった衛兵達は禁断症状に苦しんでいる、もしくは『煙草』を求めて『ボラムス』を抜け出すという事件にまで発展しているらしい。
「しかしそこまで危険なものとは。アン様、それを扱う犯罪組織の壊滅状況はどのようなものでしょうか?」
「それが思うように進んでないのよね・・・」
これまた彼女らしからぬ答えにショウはとても驚いたが逆に激高気味だったガゼルは落ち着きを取り戻したようだ。
「そんなに厄介なのか?」
「ええ。彼らはあらゆる手段を用いくるの。買収出来ない相手には家族に危害を加える方法で接してきたり見せしめとして街の中に惨殺遺体を放置したり・・・少なくとも常識の範疇を軽く超えているわ。」
「ふ~む・・・対話出来る相手じゃなさそうだな。だったら『リングストン』お得意の物量を使って根こそぎ駆除していくしかない訳だ。」
「その物量が崩されつつあるのよ。言ったでしょ?買収に脅迫が彼らの常套手段なの。もはや国内でしっかり機能する機関はないといってもいいわ。」
つまり身分を問わず犯罪組織が接触しているという事か。となると規模はいかほどのものか、想像もつかないだろう。
「獅子身中の虫、ですか。」
「そうね・・・情けないわ。新生『リングストン』の為に尽力しようとしてこの様じゃあね。」
がっくりと肩を落とすアンに何か言葉をかけなければ。ショウは珍しく思考を悩ませるとその役は傀儡王に掠め取られる。
「気にするな。聞いてる話だと食い止めようがないからな。それより今後だ。『リングストン』国内の組織が使い物にならないんだろ?ショウ、『トリスト』から精鋭を引っ張ってきて掃除してやったらどうだ?」
まさか代替案まで提示されてしまうとは。再び大きく目を見開いて驚くがアンも今回はそれを期待して来国してきたらしい。
「本当に無能でごめんなさい。ショウ、この借りは必ず返すから手を貸してもらえないかしら?」
「とんでもない。ガゼルの言うとおり今回ばかりは相手が悪すぎました。アン様の為でしたら全軍を動かしても良いでしょう。」
他国に軍を送るという行動を一切咎めないという事はそれほど切羽詰っているのだろう。ショウは速やかに了承するとすぐに帰国して部隊を派遣するのだった。
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