クレイスの憂鬱 -王の為に-⑧
アンの提示した苛烈な政策は一定の成果を見せはしたものの、それは副都市マルタゾンだけだ。
犯罪組織は他の都市部、田舎の集落に逃げ込み、そこで賭場や売春宿を開いては麻薬を売り捌く。今はまだ配給品でほとんど賄っているので基本的には物々交換が行われており、支払いが滞れば奴隷として身売りされるか殺されるかという蛮行が当たり前のように横行しているらしい。
「やっぱりねぇ。タッシール様、相手は私達が思っている以上に広く深く根を張っているわ。今からでも全ての地域で強く犯罪行為を取り締まらないと取り返しのつかない事になるわよ?」
アンはさも当たり前といった様子で助言しているが当の本人はそれどころではない。
「し、しかしマルタゾンだけでも多大な犠牲者が出ているのだ。こ、こんな恐ろしい事を続けていては『リングストン』自体が滅びかねん・・・!」
この犠牲者というのは麻薬によって亡くなった者達だけではない。取り締まる際に起こる抗争で国家の軍隊にも少なからず死傷者が出ている。
「確かに~でもやらないと侵食されるだけですし~タッシール様には踏ん張ってもらわないと俺も困るんですよ~。」
それでも軍部の最高権力者はアンの意見に同調している。素直に不思議だったがこれは犠牲以外に危惧すべき事案が存在するからだ。
「・・・何故コーサが困るのだ?」
「だって~あいつら俺すらも買収しようと話を持ち掛けてくるんですよ~?もちろん全て処刑してますがあの腐った根性だけは侮れません。」
「コーサ様は筋を通す御方ですからね。でも他の人間はいくらか買収されてるみたいよ?もし兵士が突然裏切って仲間を後ろから刺し殺す、なんて事が起こったら・・・貴方はどうする?」
そう言われるとやらざるを得ないというのもタッシールは理解しているようだが気が重い事に変わりはないのだろう。しかし何とか覚悟を決めようと何かぶつぶつと呟き始めている姿は心配になってくる。
「・・・でしたら一度タッシール様も現場をご覧になってみてはいかがでしょう?」
「ほう?」
「あら?」
故に未だ国に仕える者としての常識が欠けているテイロンはその重圧から解放出来ないかと軽く提案してみたのだがこれにはコーサとアンも驚いて見せた。
「テ、テイロン殿?今街は相当治安が悪化していると聞く。そこに私が赴けば命を狙われないだろうか?」
そうか。彼は国王であり国家を弱体化させる手段として最も狙われやすい立場だというのをすっかり失念していたのですぐに謝罪を入れるもアンには不敵な笑みが浮かんでいる。
「いいじゃない。現場を見れば迷いも断ち切れるでしょ。それにばれないようちゃんと変装すれば問題ないわよ。」
こういう胆力も敬われる一因なのだろう。アンの後押しにコーサも呆れていたが逆にタッシールは覚悟を決めたらしい。
「・・・そうだな。我が故郷が訳の分からない犯罪組織に壊されていくのを黙って見過ごす訳にはいかん。」
よかった。これで話はうまくまとまったようだ、と安心したのも束の間。アンはより強固な意志を求める為に最終的にはタッシールを少し離れた街へ無理矢理視察させると彼は彼女の思惑以上に固い決意を刻むのだった。
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