クレイスの憂鬱 -王の為に-⑦
一週間に5000人という死者が出ていた時点で既に手遅れだったのかもしれない。
あれから山のような報告が届くとタッシールはもちろん、アンですら目を丸くして『リングストン』の現状に大きな危機感を抱き始める。
「いや~一応マルタゾンの怪しい集団や店を取り締まりはしましたが正直焼け石に水って感じです~。」
大将軍コーサも命令を受けて城下町の犯罪組織に対処しているようだがいくら逮捕しても賭場や売春宿、麻薬の密売人は次から次へと姿を現すらしい。
「参ったわねぇ。まさかこんな形で物量大国が足枷になるなんて。」
既に牢屋も一杯な点を踏まえるとアンのぼやきにも頷くしかない。恐らく絶対的な独裁者の力によって抑圧されていた国民の欲望にも関係ある筈だ。
そこから一気に開放されたと同時に得た様々な娯楽は彼らに莫大な狂喜をもたらした。自我による抑えが聞かない程に。
「・・・しかしこれを止めねば国内はどんどん荒れていくぞ。」
タッシールもその辺りは理解しているのだろう。苦々しい表情で怨嗟の声を上げるがこれに対応する方法はあるのか?
「テイロンはどう思う?どうすれば現状を打破出来るかしら?」
何故かこの状況で尋ねられるとテイロンも言葉に迷う。自身も犯罪組織側で経験してきたからこそわかる答えを持ってはいるものの、それはとても難しく残酷なものだ。
「・・・全ての犯罪組織を根絶やしにする他はないかと。」
それでも伝えるべきだろう。彼は『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』で暮らしていた時には成し得なかった、考えもつかなかった方法を提示するとアン以外は目を丸くする。
「あ~やっぱりそうよね?でもそうなるとネヴラディンの時代以上に苛烈な政策をとらねばならないわ。タッシール様、お覚悟はよろしくて?」
「えっ?!と、申されますと・・・」
「捕らえた者達の取り調べを簡略化して速やかに処刑。同時に犯罪組織の取り締まりを拡大していくの。」
流石はモレストが敬愛してやまない元女王だ。非常に冷酷な内容を臆する事無く宣言する姿にはテイロンも軽い感動を覚えつつ深く頷く。
「むぅ・・・そ、それを行うと中央への憎悪がより増しませんか?」
だが実際それを実行しようものなら国民の反発もまた容易に想像がついてしまう。タッシールもそれを恐れて発言するもアンの鋭い眼光には折れる気配がない。
「う~ん。ネヴラディン様なら迷わず命令されそうですけどね~。タッシール様はまだ玉座について間もないですし難しいんじゃないでしょうか~?」
コーサも理屈は理解しているようだが現国王の器でそれを実行するのは無理があると考えているらしい。何よりその意見にタッシールが何度も頷いてしまっているのでこの施策は棄却されるだろう。
「あら?だったら猶の事実行に移すべきだわ。これを成し遂げればタッシールも名君の仲間入りよ?」
「えぇぇ・・・わ、私は特にそういう名声は求めておりませんので・・・」
今のはアンなりの説得だったのか?不思議な論調に傍で聞いていたテイロンも目を丸くしてしまったがこれは前置きみたいなものだったらしい。
「おほほほ。まぁ冗談はさておきテイロン。貴方は今の『リングストン』に近い場所で暮らしてきたのでしょ?根絶やし以外に何か良い方法はあるかしら?」
「・・・・・わかりません。ですが放っておくと二度と取り返しのつかない状況に陥る予感はします。少なくとも『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』が平和で過ごしやすい国になる未来は見えませんでした。」
「ですって。タッシール様、『リングストン』の未来を貴方の御決断に委ねます。」
「むむぅ・・・」
正直テイロンも発言してから大いに悩んだ。だが悩む部分は彼と違う。果たして根絶やしにする事が可能なのかという意味でだ。
しかし己の経験から犯罪組織というのは同調圧力がとても強いのも間違いないのだ。つまり罪人、悪人が多ければ多い程犯罪をさせやすい環境を作ってしまっている。
であればそれを根絶する事で解決に導ける筈だ。
「・・・わかりました。ではまずこの副都市から取り掛かってみましょう。それで解決出来そうなら拡大していく方向でよろしいでしょうか?」
「・・・いいわ。でも・・・間に合うのかしら?」
この時誰もがアンの言葉を理解し得なかったのだが特に気にする様子はなく、早速略式起訴と判決までの流れを簡略化するとマルタゾンの墓場にはみるみる墓石が広がっていくのだった。
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