クレイスの憂鬱 -王の為に-⑥
裏組織がどれ程強大な影響力を持つか、というのは当事者にしかわからない。
想像もつかない理不尽とどす黒い暴力の中に取り残された人々は思考と理性を大いに削られてしまう。平和に現を抜かす人間は何故立ち向かわないのか、反抗しないのかと幼い疑問を軽々しく宣うが、こういう輩もまた環境に汚染され思考を奪われている事に気が付かない被害者なのかもしれない。
それが当たり前な環境下では逆らうとか歯向かうではない。良くも悪くも適応してしまう人間達の心には諦めも悲観も生まれないのだ。
かつてファーンが治める国『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』もそうだった。彼は国王として君臨していたものの国内外ではあらゆる犯罪組織が幅を利かせていた。
これにより毎日何処かで抗争が起きていたし死者が出ない日はなかった。それでも彼らを取り締まらなかった理由は1つしかない。
それこそが『完全なる統治』だからだ。
恐怖で支配する事により人々は考える事を放棄する。そうしないととてもじゃないが心を維持出来ないから。犯罪組織に逆らうと死よりも恐ろしい報復が待っている環境下での生活は苦労以上に恐怖に塗れていたのだ。
更にこの方法には大きな利点もあった。一つは犯罪に目を瞑る代わりに上納金を回収出来る事、そして恐怖や不満の対象を彼らに押し付けられる事だ。
当然いざという時の為に国家が強力な武力を保持する必要はある。だが『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』では牽制の意味合いしかなかった。
時折起こる大きな不満や国力の低下を感じ取った時はこれらを使って犯罪組織を壊滅するかのような動きを見せればいい。それだけで思考が停止した国民達はすぐに希望と熱狂を胸に抱く。冷血王ファーンは民の為に動く英雄だと一瞬だけ持ち上げられる。
気が付けばまたもとの環境に戻るというのに恐怖というのはそんな事すらも忘れさせるほど強力で有用なのだ。
「これは・・・」
そんな異変とも呼べる変化にいち早く気が付けたのは以前在住していた経験からだろう。テイロンは念の為と自身の部隊でもそれなりに強くなっていた兵卒をいくらか率いて街に出向くとすぐに理解してしまう。
「何だ?『リングストン』っていうのは随分と寂れてるんだな。」
オスロー改めクラウは全く見当違いの感想を漏らしているがこれは決して愚鈍だからではない。知らない故に仕方のない事なのだ。
「皆気を引き締めろ。ここは『リングストン』というより『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』に近いやもしれん。いつ襲われてもおかしくないぞ?」
生死すらわからない人間があちこちの道の隅で横たわっている姿からは以前の記憶が否が応でも蘇ると同時に現状への早すぎる変化に戸惑いもした。
自分がこの世界に迷い込んでからまだ半年も経っていない。にも拘らずファーンはその短期間で大国『リングストン』を犯罪国家へと変貌させたというのか?
「・・・ファーン・・・俺が思っていた以上の大物らしい。」
しかしこんな惨状を作り出せたという事実こそが彼が関わっている証左とも呼べる筈だ。テイロンは周囲を警戒しつついくらかの麻薬中毒者を調べるとその日は安全確保の為いち早く帰城するのだった。
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