クレイスの憂鬱 -王の為に-⑤
今までの『リングストン』は圧倒的な独裁者によって統治されてきたが決して付け入る隙が無かった訳ではない。独裁者だからこそ己の手足となる従順な組織を欲していた。
その最たる例がかつて大将軍ラカンが有していた暗殺組織だ。
独裁国家として運営していくには法の外で動く力がどうしても必要になる。それをあらゆる形で提供してきたのが他でもないファーンなのだ。
「う~ん。俺はいらないかな~?」
それはラカンが秘密裏に抹殺されてすぐの事だった。中央とのつながりを継続する為に新たな大将軍へと接触していたのだがコーサには必要が無いと断られていた。
もしここでファーンの存在に気がつければ・・・と思わなくもないが彼は人前に姿を現さないのだから気付けというのも無理な話だった。
故にしばらくはフォビア=ボウだけの手足となり暗殺、買収、煙草の生成に人身売買等を一手に引き受けていたのだが彼と王都が突然崩御すると再び岐路に立たされる。
独裁者との関係を続けるのか、それとも『リングストン』の掌握に打って出るか。そして出した答えが今回の麻薬拡散なのだ。
「国家の転換期をみすみす見逃す愚は取るまい。」
この世界に紛れ込んで既に10年以上は経過しており、その間に暗躍する組織も6つほど形成出来た。各々の力も十分に育っているのでこれらを動員すれば一国家をひっくり返すくらいは十分可能だろう。
これは以前『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』を統治していた経験からも確信に近いものがあった。
何年もかけて『リングストン』の中央と関係を保ち続けてきたのも奴らに気が付かれないようにこちらへ依存させつつ少しずつ僅かな力を削る為だった。
情報では新たな王タッシールは全く問題になるまい。注意すべきはその側近として辣腕を振るうアンだ。
4年程前に『シャリーゼ』陥落と共に崩御したと聞いていたがまさか再び現れるとは。いや、自分も『ウラヴィ大陸』から突然この世界に迷い込んできたのだから人ひとりが生き返る程度に驚くのも今更な気はする。
「恐らくすぐに動きを見せる筈だ。全ての組織に殺人を許可するので思う存分暴れるがよい。」
同時に賭場と売春宿の開設も指示する事で更なる堕落と掌握を狙う。人間とはどんな世界においても欲望には抗えない。特に抑圧されていた『リングストン』なら猶更だ。
「衛兵は全て皆殺し、でしょうか?」
ファーンは自らの経験から玉座や冠がどれほど無意味なものかを良く知っている。そんな飾りでは何の役にも立たないという事実を。
真の王とは畏れられなければならない。恐れられなければ人々の心を掌握など出来る筈もないのだ。
「うむ。ただし残忍に、だ。そして奇襲と暗殺を全うしろ。真正面から戦うなどという愚を犯すでないぞ。」
そう告げると側近は静かに暗い部屋を後にする。そしてそれを見届けたファーンは再び国家の最高権力者が目前に迫るのを肌で感じ取るのだった。
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