クレイスの憂鬱 -王の為に-④
そういえば一つ大事な事を伝え忘れていたのをテイロンは現地に入って思い出す。
「ようこそテイロン殿。お待ちしておりましたぞ。」
「久しぶりねテイロン。しばらく見ないうちに随分と将軍らしくなって。モレストも喜んでるでしょ?」
「初めましてタッシール様、アン様もお元気そうで何よりです。」
といってもこれを言葉に表すのは非常に難しいので、まずは国王と今は側近である彼女との謁見を済ませると早速執務室で現在起きている『リングストン』の内情を詳しく教えてもらう。
「一週間で5000人の死者、ですか。しかも胃の中はほとんど何も入っていなかったと。」
「ええ。最初は餓死の方向で調べていたんだけどタッシール様が国王になってからは配給品の質は相当上がってるの。だからおかしいな~って思ってたんだけど先日貴方からの新しい情報が目に留まってね。それで直接調べて貰えたらなって思ったのよ。」
となれば話は早い。早速テイロンは安置所でいくつかの遺体を調べてみると全てにおいて見慣れた麻薬の症状が現れている。
「全員が麻薬の常習者で間違いないでしょう。しかし私の知るものとは少し違うような・・・」
「ほう?」
この世界にそのような代物はないとモレストからも聞いていた。という事は似た症状が現れてはいるものの『ウラヴィ大陸』で使われていた麻薬とはまた種類が違うのか?
「見て下さい。前歯が特に顕著なのですが黄ばんでいるだけでなく妙に溶けている。ここまでの歯は俺も初めて見ます。」
「ほほう?そういう部分で判断するのね。」
使用は煙草と似たような方法で間違いないだろう。しかし食欲にすら勝る依存性は『ヴォーダ=ムン=ヴァーレー』で流行っていたもの以上に危険なのかもしれない。
「・・・そうか。臭いだ。死体なのでわかりにくいがこれは俺が知っている臭いとは違う。アン様、タッシール様、死体のあった街を全て洗い浚い調べるべきです。その時この臭いも目安にしてみて下さい。」
「おお?!な、なるほど!そういった特徴もあるのか!よ、よし!早速衛兵達にも報せよう!!」
「・・・ああ、煙草のように煙を体内に入れるんだから燻されるような臭いが付くのね。わかったわ。」
それにしても流石はモレスト王が敬愛する御方だ。まさか今の短いやり取りでそこまで理解されるとは。自身も言語化が難しく諦めていたがこれなら間に合うかもしれない。
「はい!俺も現地に向かいます!一番人の多い場所はどこでしょうか?」
以前の世界の下町や裏通りではそれに溺れて同じように命を亡くす者を何十人も見てきた。既に一週間で5000人もの死者が出ているとなるとうかうかしてはいられない筈だ。
そこでテイロンも自ら足を運ぶ事を志願したが今回は司令塔として働いてもらいたいという事らしい。しかし自身も未知の麻薬について詳しく調べたかった為、一番手近な現場だけを視察する折衷案でこの場は収まるのだった。
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