クレイスの憂鬱 -王の為に-①
ファーンが『リングストン』国内に迷い込んだのはウォダーフよりも前だったが大きく違う点として周囲に存在を知られないよう動いていた事があげられる。
顔を隠し、偽名を使って情報を集めたのも未知の世界でどう立ち振る舞うか、それをしっかり見極める為だ。
「・・・ここは『リングストン』というのか。」
ある日突然眼前の景色が変わったのにはとても驚いたが死んだわけでもないらしい。ただ空気や季節の相違、昼間だった空が真夜中になっていた事からも自分の知らない場所に流されたのだけは何となく理解出来た。
(しかし聞いた事のない地に私一人だけとは・・・ふふふ。面白いではないか。)
ファーンも最初から王だったわけではない。彼が生まれた『ウラヴィ大陸』では様々な権力者が常に争い合っていた為、貧富と力の差が目まぐるしく移り変わっていった。
一代で豊かな大国を築き上げたとしても二代目に移った瞬間に内部から崩壊する等吐いて捨てる程よく聞く話だ。裏切りなども珍しくなく、だからこそ平民の出自でも好機が掴めたのだが底辺を知る彼は周囲の人材を心から信じる事はない。
巷では冷血だのと言われていたらしいが自分が寝首を搔かれるよりはずっとましだろう。
そんな彼が全く違った環境に降り立ったというのはまた零から王になれという神の試練か悪戯か。
(この地の民は配給によって支配されているのか。我が国では絶対に通用しない方法だな。)
同盟など形骸化しており常に隣国からの侵略に脅かされていたファーンにとってこの国家形態は少なくとも感心するほどに興味深いものだった。
そこから周辺国の事情を少しずつ入手していくと『リングストン』が広大ながらも閉鎖された国だというのがわかってくる。
更に自分のいる場所が『リヤマーヴ領』であり、国内では煙草が唯一の娯楽として広まっている事も頭に入れると今後の行動を考え始めた。
彼がこの地や国の事を全く知らないのと同じように『リングストン』の民も自身の国や大陸を全く知らない。となるといくら身を潜めた所で帰国を果たせるかどうかわからない。
であればこそ。名も知らぬ場所で名を知られぬまま朽ち果てるくらいなら再び一旗揚げようではないか。
『ウラヴィ大陸』で最も大きな国家を樹立した王が誰にも認知される事無く生涯を終えるなどあってはならない。
そう考えたファーンはまず比較的大きめの集落で幼子と住む家族に目星を付ける。これは子供を人質にする目的はもちろん、多くの物資を効率良く得る為だ。
幸いこの国の住民達はさほど強くないので多少の反乱であれば一人でも問題なく制圧出来るだろう。元より奴隷という身分が存在したり煙草といった与しやすい代物もあるのだから土壌は十分だ。
そしてこの時は官吏の誰もが国内情勢を把握できていなかった、いや、正確には嫌な予感を覚えつつ把握する事から顔を背けていた。
故に財政と王が破綻する時までファーンの存在など誰一人気付く事はなかったのだがそれが明るみになった時、『リングストン』という国家はいよいよ大きく傾き始めるのだった。
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