クレイスの憂鬱 -王の侵略-⑩
最初は不透明で静かな侵略だった為誰も判断出来なかった。しかし下地は十分にあったのだ。煙草という大きすぎる下地が。
「アン様、最近の不審死増加というのはやはり・・・?」
「・・・・・私も蔓延したものを完全に無くせるとは思っていないわ。でも今の国民には自らの向上心と活動が絶対に不可欠なの。だから市場に出回る煙草の数を減らしたし、それにより増えるであろう闇取引も厳しく取り締まってきたのに。」
この日、報告書を挟んで座っていた2人は難しい顔を浮かべながら今後の対処について頭を悩ませる。
『リングストン』が完全な独裁国家だった頃、ネヴラディンにより国民は娯楽と称して煙草を押し付けられていた。これにより多幸感こそ得られるものの代わりに思考や味覚を大きく奪われてしまう。
故に配給品も体調を崩さなければ味や量など最低限でよかった。加えて過酷な労働環境という不満も全て煙草でかき消す事で独裁者は国家権力を完全に掌握していたのだ。
ところがタッシールが王として立つと独裁体制の終焉に運営方針の変更という転機を迎えた。
アンが国力増強の為にと不健全な生活からの脱却を提示してくるとタッシールにも反対する理由はない。
なのに何故か全国規模で外傷のない痩せた変死体が目立つようになってきたのだから2人は大いに小首を傾げる。相変わらず配給式ではあったものの食料の量と質に関しては格段と良い物に代えているので栄養面では問題ない筈だ。
「・・・我らの目の届かない所で粗悪な煙草でも流行っているのでしょうか?」
「『リングストン』の人口は圧倒的に多いからね。全てを監視するのは不可能だけどそれにしても数が多すぎるわ。」
直近の報告では一週間で5000人もの国民が土色となって死んでいるのを発見されたというのだから規模が想定より遥かに大きい。しかもそれが全土で見受けられるというのは原因にも強大な理由があるのか。
「とりあえず全てを検死していくしかないわね。そもそも煙草が死因になるなんて聞いた事がないんだけど。タッシールはどう?」
「そうですね・・・吸い過ぎだと寿命が縮む、とは言われていましたが突然死となると別の原因が考えられるかと。しかしそれが何なのかは想像がつきません。」
「そうよね~。う~ん、変な人や力が関わってなければいいんだけど・・・」
アンの呟きにはタッシールも危機感から鳥肌が立つ。今に限った話ではないのだがこの世界には常人とはかけ離れた人物が確かに存在するのだ。
「・・・まさかまた『七神』でしょうか?」
「それは本当にまさか、ね。私は前王のフォビア=ボウがよく用いてた毒関連かもって思うんだけど何故『リングストン』が狙い撃ちされてるのかはわからないし。」
その『わからない』は自分の知る情報から導き出した答えなので仕方のない事だった。
まさか異邦人によって仕組まれていたとは思いもしなかっただろう。
だがファーンは目的の為に手段を選ばない男なのだ。見ず知らずの土地であれば猶更だ。こうして国家が転換期を迎えるという非常に危険な状態を狙い撃ちされた『リングストン』は再び大きな問題に直面する事となるのだった。
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