クレイスの憂鬱 -王の侵略-⑦
「・・・国に仕える将軍だからね。貴女みたいに適当な仕事が出来る身分じゃないのよ。」
まずは豚肉を一枚口に含んだ後、しっかり美味しさを噛み締めてからそう答えるとタシンも続いて顔を綻ばせながら舌鼓を打っている。
「そっかそっか。そんなにお忙しい御身分なら男にうつつを抜かしている暇もないだろうね。」
「・・・・・何が言いたいの?」
「うん?カズキ君の事を諦めて?」
いつもなら喧噪で賑わう店内が何故かとても静かに感じたのはそれだけ心に衝撃が走ったから、ではない。実際周囲も4将フランセルの動向には気を配っていた。故に彼女達の会話を拾おうと皆が聞き耳を立てていたのだ。
「諦める・・・の意味が分からないわね。それにカズキは誰のものでもないでしょ?」
「そうかな?私はもう私のものだと思ってるんだけど。だから寄ってくる虫を駆除しなきゃって。」
やはりこいつは排除すべき存在だ。幸いここは『ネ=ウィン』国内なので殺ったとしても問題なく処理出来るだろう。
出来れば目立たないように流血は抑えたい所だが物騒な事を考えているフランセルとは裏腹にタシンは不敵な笑みを浮かべた後、何事もなかったかのように食事を再開する。
「・・・私からすると貴女達の方がよっぽど悪い虫だわ。そもそも住む世界が違う筈なのに何故彼を選ぶの?色恋沙汰なら元の世界でやってくれない?」
「そうしたいのは山々だけど私の世界は崩壊してたし、カズキ君みたいな面白い男の子もいなかったしね。」
初めて聞く話に少しだけ驚いたが彼女の思考はとても読みづらい。揺さぶりや同情を誘っている可能性もあるので冷静さを装っているとご飯を平らげたタシンは静かに席を立つ。
「すみません。これってもう1つ、お持ち帰りで用意して頂けますか?」
どうやら提供された料理がとても気に入ったらしい。フランセルは呆れると共に最後なのだからと慈悲を与える。
(・・・それを食べる機会はもうないけどね。)
後は目立たない裏通りで実行すれば良い。恋という泥沼に沈んでいた彼女の心は突発的な計画に染まりきっていたのだがそこで正気に戻る機会を得た。
「えへへ。これならカズキ君も喜んでくれそう。ね、フランセル?」
「・・・・・そうね。」
異邦人が目覚めるまで傍から離れないと言っていたのを気にかけていたらしい。先ほどまでとは打って変わって恋する乙女の笑顔を向けてくるとフランセルは羞恥で目を逸らしてしまう。
タシンが死ぬ、もしくは殺されたとカズキが知った場合どうなるか。何故そんな簡単な事に気が付けなかったのだ。
「・・・このお料理は私の紹介だから半分は私の手柄よね?」
「お?言うねぇ。」
非常に狡猾で度し難い彼女だが土俵くらいは合わせるべきだろう。圧倒的武力差を収めたフランセルがせめてもと切り返すと2人は含みのある笑顔を交わす。
そして医務室に戻ると件の異邦人は目を覚ましていた。
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