85、死装束
クローンキラー討伐から二日後俺は少しの間休みを貰う事にしていた。
赤石からは一年位ゆっくりしていても良いと提案されたが何かのきっかけで再びキラーが殺戮を始めるかどうかもわからないので丁重にお断りした。
手首が無い左腕はもちろんの事、内部がいかれてしまった右腕も自分が動かしているイメージと違う動きをしてしまう為、日常生活を送るうえで大きなストレスとなっている。
先程もデリバリーしたピザを口に運ぼうとした所口ではなく顎に運んでいたようで食事すら満足に行えなかった。
この状況で残りのキラーを討伐出来る自信があるのには訳があって、現時点で完全にキラーの動きを制御出来る自信があるのと余程の事が無い限り自分自身が襲われない為守る必要が無いからだ。
とはいえ、今の体ではまともにキラーを討伐出来そうにないので少しの間訓練をしておきたいというのが赤石に時間を貰った主な理由だった。
作戦はこうだ。
滑走路で訓練用の的に向けて投石すると同時にキラーを発生させ巻き添えになってもらう作戦だ。
これならキラーの現れる位置を把握できた時点で直ぐに討伐を終える事が出来る。
問題はこの腕でどれほどの威力で投石できるのか。
狙い通りに投石できるのかという所だ。
これには事前の訓練が必須だろう。
という事で俺は早速次の日から基地の訓練所へ向かった。
訓練所には相変わらず大塚がいて一人リングの上で拳を振るっている。
「大塚さん、相変わらず元気ですね」
「マツダか。体の具合はいいのか?」
自分が負傷した事を持ち出した嫌味という訳ではなかったが大塚は頭を掻きむしりながらばつが悪そうな顔をする。
「お陰様で顔も元通りになりましたし。食欲もありますよ。上手く口に運べないですけどね」
「そうか、よくやったよ。お疲れさん。最後の一体なんて、あとはもう自然災害にでもしてもらってゆっくり過ごしたらどうなんだ?」
自然災害とは上手い事を言ったものだ。
確かに残り一体は自然災害なので諦めましょうという流れでも今の情勢ならばまかり通りそうなものだ。
しかし、災害にあった方は諦められるのだろうが災害を起こしてしまった本人からしたら自分が人を定期的に殺しているという引け目が常に付きまとう。
「そんなのいけませんよ。討伐軍の仕事を全うしてください」
俺の態度に大塚も両手を広げてやれやれと言った顔をする。
「それより、この前のゴルフボールはまだ上にありますか?」
俺は先日訓練に使ったゴルフボール射出機のゴルフボール側が使いたかった。
「あぁ、まだ片付けられていないから上にあるな」
「上で投球練習をしてもいいですか?」
「あぁ、もちろんいいが、プロ野球選手にでもなるつもりか?」
「ゴルフボールで?そんないじゃないですよ。最後のキラー討伐の為にちゃんと狙えるようになっておきたいんです」
「お前、最後の一体を倒したらどうなるのかわかってるんだろうな?」
「もちろんですよ。最後のけじめってやつです」
「基地内でも各国からもお前の功績を考慮して寿命まで目を瞑るって話になってきているみたいなのに、いいのか?」
「えぇ、もちろん。そうやって俺の意志を揺さぶるのやめてくださいね」
これ以上大塚の話を聞いても最後のキラーを討伐する信念を揺るがされかねないので俺は早々に二階へ向かい訓練を始める。
残念な事に以前訓練で使ったままゴルフボールがそこら中に散らばっている。
まずはすべてのゴルフボールを拾い集める為にどのくらい早く動けるのかを試す。
足の損傷は殆ど無いため移動は快調だが、肝心のゴルフボールを集めるという点においては赤点だった。
拾おうと手は動かしているのだがゴルフボールを掴む事が出来ずにただ射撃訓練所を走り回る情けない形となった。
仕方なく一つ一つ拾い上げて射出機に備え付けられた籠の中に集めた。
その様子を大塚が見ていたようだ。
「お前、本当に不調みたいだな」
「左手も無いですからね。まだ動きますが右腕もやばいですよ」
「俺に何か手伝えることは?」
「的が欲しいです」
「わかった・・・」
大塚は俺の望み通り射撃訓練場に的を立てていく。
その間俺は腕を素振りして投球の感覚を体に叩き込んだ。
だが、しっかりと腕を振っていると思っていても実際には前腕から先の動きの伝わりが思ったいたものと違い、的から大きく外れる。
大塚は傍らに立ち、腕を組んだまま無言で的を見つめている。
機械の腕というのもなかなか便利なもので、自分の狙いを修正した分だけ投球する球の位置も同時に修正されてくれた。
最終的に目標となる的を正面に置いた時、大きく右上を狙った時に丁度的に当たるようだ。
的に直撃したゴルフボールは以前の投石の時と同じように的を粉々に砕く程の威力がある。
肩の部分が無傷だったことが投球の威力の維持につながってくれたのだろう。
一度感覚を掴んだ後は細かい微調整も済み、全弾命中させることができた。
「上手い事調整したな」
「えぇ、これで最後の戦いに挑めますよ」
「あぁ・・・俺はもう辛いからお前には会わない。お前は世界を救った最高の英雄だったよ」
俺は大塚と最後の抱擁と握手を交わし階段を降りた。
背中から大塚の嗚咽の混じっすすり泣きが聞こえ胸を締め付ける。
最後の討伐の手応えを掴んだ俺はリハビリを兼ねて商業区へ走った。
右手はスーツの残骸で黒いまま、左手は欠損している状態で電車に乗る気にもならなかったというのが主な走る理由だったが、俺の中ではリハビリという事にしていた。
いつもの商業区の駅前に着くといつものデパートへ向かう。
以前散財した時に注文していた和服があったからだ。
先日の厳戒態勢が解かれた事とキラーが全て討伐されたという間違った報道のせいで街中は人で溢れている。
この和服は最後の戦いに着ていこうと注文していたものだ。
売り場に着くと下履きに突っ込んだ財布から引換券を取り出して店員に渡す。
「マツダ様、お待ちしていました。ご注文の品をお持ちいたします」
「お願いします」
予定日よりも少し早いが既に出来上がっていたようだ。
せっかちな客のせいで予定日よりも少し早く仕上げておくというのが通例なのだろうか。
少し待つと奥から店員が木箱を運んでくる。
「自分で着られないのでここで着ていきたいのですが、手伝ってもらえますか?」
「もちろんです!それではこちらへ」
店員に誘導されテナントの奥に設置された暖簾で仕切られた畳の空間に行く。
俺が誰に言われるまでもなく来ていた服を全て脱ぎ捨てると店員が焦り俺を制止する。
「あの、下着は付けたままで結構ですので!」
だが、全て脱いだ俺の姿を見て店員は次に言おうとしていた言葉を飲み込み、黙って俺に真っ白な死装束を着せていく。
「これから最後のキラーを倒しに行くので死装束に丁度いいと思いまして」
場を和ませようと購入の経緯を話すが店員は心ここにあらずという雰囲気で生返事しかしない。
既に金は払っているので着付けを済ますと脱ぎ捨てた服の処分をお願いし、デパートを出た。
ちょっと掲載時間を変えてみました




