84、ボロボロの体
「マツダ君!大丈夫か!」
半ば木人形のようにキラーの的になっていた俺の元に斎藤が駆け寄ってきた。
「斎藤さん・・・」
俺はようやく起き上がり、斎藤にしがみ付く。
左手を失ってしまっているので抱き着いているような形になったが、それでいい。
斎藤にはどれだけ感謝を伝えても伝えきれない程の事をしてもらった。
「斎藤さん、本当に助かりました。ありがとうございます」
「気にするな!最後の一体で近場に出たんだ、俺だって何かやってやろうって気持ちにもなるさ」
「世界を救ったのは・・・間違いなく斎藤さんですね」
「そうだろう?俺だって、やるときはやるんだ・・・」
そして斎藤が急に号泣し始める。
「斎藤さん?」
「馬鹿野郎!本当にもう、駄目かと思ったぞ・・・」
大声で号泣しながら俺に抱き着く斎藤の背中を撫でて俺も少しもらい泣きをした。
「斎藤さん、ちょっと気持ち悪いんで離れてもらえます?」
茶化すように斎藤をなだめて、基地内に報告をしに行かなければならない。
すると基地から次々と人が集まってくる。
「マツダさん!」
赤石だった。
キラーが現れた時直ぐに身を隠す事が出来たのだろう。
そして反撃しても意味がない事も知っている。
これから大事な使命が待っているので赤石が生き残ってくれた事がとても心強かった。
「赤石少佐、あの状況でよく生き残れましたね。さすがです」
「ええ、マツダさんの到着がもう少し遅ければ次は私がやられていたでしょう。本当にありがとうございました」
「いえ、急いでいたのでドローンと扉をいくつか壊してしまいました」
「そんなことは些細な事です。担架を持ってきます。少し待っていてください」
珍しく赤石が駆け足で基地内に戻っていく。
「斎藤さん?そろそろ離れましょう?」
斎藤は未だ俺に抱き着いた形のままだった。
担架で研究室に運ばれ、手術台のようなベッドに寝かされると体中のスーツを剝がされていった。
頭部と皮膚の残っている胴体部分は難なく剥がれるようでナイフで千切られていくが義体がむき出しになっていた部分は細かい隙間まで浸透しているようで剥がすことが出来なかった。
被害は左頬肉の創傷、左手首の破損、左腕上腕部筋繊維の一部断裂、肋骨7本の骨折、右腕前腕部内部フレームの破損、頸椎捻挫、あとは複数個所で義体表面の破損があったようだ。
戦闘中は義体で攻撃を防いでいた為体に攻撃を貰っていなかったはずだが腕で防いだ時に骨まで響いていたという事だろう。
戦闘時は必死で防ぐので精一杯で痛みなどは感じなかったが今になって頬の肉を削ぎ取られた部分がひどく痛む。
「マツダさん!」
検査の結果を斎藤に聞いていると高城が研究室に入ってきた。
そして俺の姿を見るなり飛び掛かってくる。
「ありがとう!本当にありがとう!もう死ぬかと思っちゃった!」
そう言いながら俺にしがみ付いて来るがこちらとしてはそれどころではない。
ひび割れた肋骨が悲鳴を上げている。
「高城さん!痛い!めちゃめちゃ痛い!」
俺は足をじたばたさせて精一杯の抵抗をする。
「高城君!マツダ君は死にかけてるんだから気を付けて!」
「まだ全然生きてますから!死ぬにはまだ早いですよ!」
検査をしながら
「これは惨いね、普通の人間のやられ方じゃないよ」
などと冗談を言っていた斎藤が庇ってくれる。
「ごめんなさい!でも、あの時死んじゃうんじゃないかって思っていたから。本当にありがとう」
「でも、守れなかった人もいます。すみませんでした」
「仕方ないわよ、あんな狭い空間に現れて死ななかった方が奇跡だもの。あとの事は考えずに今は治療に専念して」
そう言って高城は俺の額にキスをして研究室を後にした。
「マツダ君。浮気かい?」
「違いますから!」
それから俺はDNAが一緒だからという理由でクローンの入っていた培養液の中で治療を受ける事となった。
クローンは最後の一体を倒した時点で四肢と首が胴体から離れ活動を停止していたという。
クローンとはいえ殆ど人と変わらない体組織を持っていたクローンは焼却された後骨まで酸で溶かされる事となったようだ。
主に頬の肉だけが大きなダメージだった為、俺は培養液の中で一日過ごすだけで顔の組織を元通りにすることができた。
目が覚めた時には既に病室に移されていて傍らに斎藤が立っていた。
「おはよう、マツダ君の治療はとても簡単で助かったよ」
左手で頬を触ろうと思ったが手首は未だ元に戻っていないようだが頬の痛みも無く、今までと変わらず強く瞬きも出来る。
「斎藤さん。おはようございます。流石に損傷した義体はどうにもならないんですか?」
「あぁ、俺にはどう直していいのかさっぱりわからない。一条さえいてくれたらな・・・」
「最後の一体は今の状態でもどうにかなりそうな気がするんです。だから、このままでも大丈夫ですよ」
クローンから発生するキラーは全て倒すことが出来たが最後の一体が残っている。
俺は右手がまだ動く事を確認して最後のキラー討伐への闘志を燃やした。




