7、研究室
軍の研究室ではマツダカズトに討伐されたキラーの研究が行われていた。
全身防護服に包まれた研究員がキラーの〈スーツ〉を顕微鏡で覗いたり、切れ端を薬品で溶かしてみたりと忙しなく動き回っている。
「斎藤さん、何か解ったことはありますか?」
ガラス張りの壁の外からキラー討伐軍少佐の赤石が尋ねた。隣にいるのは研究室の責任者で斎藤といった。
「様々なアプローチを試していますが樹脂製のスーツである事以外の情報が出てきません。ナイフが刺さるまで密封されている作りになっていたので空気を満たして動いていた可能性がありますが、この仮説も現在調査中です。」
マツダカズトが討伐したキラーには中身が無く、着用するためのファスナー等も無かった。
ゴムのチューブが膨らんで人の形をしていたに過ぎなかった。
ただそのスーツは確かにあの場で活動していたし、表面には被害者の血痕が付着しており、DNAも一致している。
間違いなくこのスーツが犯人でマツダカズトに倒されたのもこのスーツで間違いないのだ。
「キラーがただのゴム風船だったなどと報告できませんよ。」
「サンプルを各拠点、各国へ送り合同調査にします。それぞれの研究室にも根回しは行っております」
「それでいいです。被害が増える前に正体を突き止めてください」
「かしこまりました」
赤石は斎藤を急かすと執務室へ戻った。
今まで各国に現れたキラーは最大で5体だった。
これは、同時に殺戮が行われていた地区が5か所までだったからだ。5か所以上の同時展開は今までに無い。
現在1体のサンプルが捕獲されているので今後は同時に4か所までの展開が最大のはずだ。
先日の商業地区の被害者は496人でキラーが討伐されてから今日まで全世界で被害が発生していない。
かつて世界では毎日数十名から数百名の被害があった。
そう考えると元々1体しかおらず、既にキラーは討伐されたのかもしれない。
樹脂の〈スーツ〉だけを残して。
コンコンコンとノックが聞こえてすぐにドアが開いた。
軍医の一条大尉だった。
赤石とは自衛隊の駐屯地からの長い付き合いで返事も待たずに勝手に入ってくる。
「お呼びでしょうか」
「ノックの後は返事くらい待てと何度言ったら、、、」
「例のプロジェクトは進めていますよ」
「はぁ、、、」
一条は赤石のお説教も全く聞く耳を持たない。
お説教の最後は必ず赤石のため息で締めくくられる。
「幸いサンプルも十分にある。進捗はどうだ」
「順調です年内には稼働できる予定です」
「年内では遅いな」
「年内でも十分早い予定です。あまり急かされると失敗してしまいます」
「失敗はだめだ、だが、なるべく急いでくれ」
「わかりました。では、年内には稼働させます」
「はぁ、、、」
赤石の執務室から出た一条は隣の病棟にある研究室へと向かった。
研究室内には大きな試験管の中に肩から指先までの腕が入っていた。