66、人殺し
笑い疲れて周りを見渡した頃、キラーの姿は既に無く静けさの中に血の噴き出る音が静かに残っていた。
キラーが発生した際には近くにいた者が携帯アプリから通報ボタンを押す事になっていて悪戯防止に一定数の通報があった後基地に警報がなる事になっている。
それは今までキラーが発生する時には必ず屋外で人が多い時間帯の人の多い場所で発生する事で成り立っている。
今回のように屋内で数人しか目撃者がいない場合では基地に通報が無く誰も生体情報を監視してくれる事も無い。
お陰でこの状況を把握されずに済む。
しかしこの鎖で巻かれた状況をどうにかしなければならない。
先程から体を動かしどこかで緩んでいないかと色々試したがどうにもきつく巻かれているようでピクリともしない。
もたもたし過ぎたか、もしくは先程無駄に笑い過ぎたのか運悪く先程腕を落とす何かを探しに行った男が戻ってきた。
「すみません!遅くなりました!」
威勢よく大きな扉を開けて入って来るが目の前の肉塊共を見てピクリとも動かなくなった。
目だけを動かし周りを見渡している所を見るとこんな事をした<敵>を探しているのだろうが動きを止めた位で難を逃れられるとでも思っているのだろうか。
手には斧が握られているがこれでは鉄製のチェーンを切れそうになかった。
「君、死にたくなかったらこのチェーンを切ってくれないかな。俺ならキラーを倒すことが出来る」
既にキラーは消失していてもう暫く現れる事は無いだろうがどうにかしてチェーンを解いてもらわなければならないのでもっともらしい文句で交渉する。
「お前がやったのか?」
男は恐怖で声を震わせている。
見てわかる程手や膝を震わせ、体全体で恐怖を表現してくれている。
「俺ではないよ、チェーンを巻かれていてこのままじゃまたキラーが戻ってきて俺達もやられてしまう、だから早く!」
もたもたしている男に少し腹を立てて少し強い口調になってしまう。
男は肩を驚かせてにじり寄って来た。
(よし、そのままチェーンを解きに来い)
ようやく俺の頭の位置まで来ると男はぼそぼそと何か呟いている。
「俺がやってやる、俺がやってやる、俺がやってやる、俺がやってやる、俺がやってやる、俺がやってやる・・・」
男を呟きを聞いてこれから何をしようとしているのかを知るのは容易だった。
「おい!落ち着け!早くチェーンを解け!」
俺の声が引き金になり男は手斧を振りかぶる。
「俺が!やってやるんだー!」
立ち位置といい目線といい明らかに頭部を狙っている。
義体の場所ならともかく頭部を斧で殴られれば確実に命を落とすだろう。
チェーンをかなりきつく巻かれているようで今まで試していなかったが、全力で腕を曲げるとチェーンは簡単に千切れ腕の自由が利くようになり、何とか横に飛びのく事が出来、ギリギリの所で斧を避ける事が出来た。
腕が自由になった事とチェーンが案外簡単に千切れる事がわかり直ぐに足に巻かれたチェーンも引きちぎりようやく自由になる事が出来た。
男はコンクリートに強打した衝撃で斧を床に転がし慌てて拾いに行く。
「待て!俺はもう自由になったぞ!全身義体の俺相手にお前の勝ち目はないぞ!」
どうにかして落ち着かせて逃がしてやりたいが肩で息をしながら口からぴゅーぴゅーと音を鳴らしている。
俺の声が届いていないようで再び斧をもってこちらを向いた。
「殺してやる!俺が殺して!俺がボスになる!」
今度は先程よりも早い足取りでこちらに向かってきた。
斧は振りかぶったままで足元はふらふらで目に一杯の涙を溜めている。
やるしかない。
この男を殺すと覚悟を決めた瞬間再びキラーが目の前に現れた。
今度は怒りなどではなく自分自身の意志でだ。
頭部を狙い一撃で倒す。
自らの手で倒すイメージをしていたがその通りにキラーが攻撃を放ち、男の頭部は水風船のように飛沫を上げて吹き飛んだ。
相手を倒し終わるとキラーは直ぐに消える。
今まで人を殺すという明確なイメージを持ったことが無かったせいでわからなかったが、キラーは確実に俺の意志で動いている。
では今までの殺戮も俺の意志だったとでも言うのだろうか。
気付けば俺も先程の男のように肩で息をしている。
ただ体に巻かれたチェーンを千切っただけだというのに。




