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64、散財

 布団を買いに商業区に出た俺はいつもお世話になっているデパートに向かった。


だが、上層階はキラーの襲撃から復旧できずにいるようで寝具コーナーは閉鎖中との事だった。


仕方なく線路の反対側のデパートに向かい敷布団と肌掛け、掛け布団と枕を購入して配送をお願いした。


お金も余っているので生きているうちにある程度使ってしまおうと一番高い布団セットを購入しておく。


どうせ半分作り物の体だからどんな布団よりも枕が一番重要だろうと思ってオーダーメードした。


世間では暫くキラーが出ていないせいもあり沢山の人で溢れていた。


都市部は危ないからと言って地方へ移住する者も多いがそれを差し引いてもまだまだ人は多い。


クローンのキラー討伐を始めるのがあと一か月後ならば少しでも人らしい事をしておこうと新しく服を飼う事にした。


場内を一回りしていると和服コーナーに飾っていた侍のような服に強烈に心惹かれて一式を購入した。


小袖と袴と羽織という名称だそうだ。


そのまま火葬されてもいいように死装束をイメージして真っ白な着物にした。


仕立てに三週間程かかるようで丁度キラー討伐が始まる前には受け取る事が出来そうだ。


気前よく釣銭を受け取らずに引換券を貰うと今度は前にも行った事のある立ち食いステーキ屋に向かった。


一番グラム単価の高い国産牛のステーキを注文したが元々大して食べる方でもなければ最近まで入院していたりと多く食べる習慣が無かった為半分程残してしまった。


多く注文してしまった事を店員と残った牛肉に謝罪しここでも釣銭を受け取らずに店を後にした。


買い物で時間を費やしてしまっていたせいで外は既に暗くなっている。


一通り買い物を楽しんで食事もした所で注文した布団が届く時間が近づいてきた為一度部屋に戻る事にした。


電車の中では自ら進んで優先席に座る事にした。


全身義体なのだから全く問題ないだろう。


むしろ普通の席に座って健常者の座るスペースを取ってしまう事に遠慮しての行動だ。


向かいの席に座った女学生らしい集団が俺を見てはしゃいでいる。


開き直って今では手袋をしていない為両手が見たことの無い作りをした義手を見て盛り上がっているのか、拡散されている動画を見て俺の事を知っているのか本人に聞こえる位の大声だ。


目が合ったので人差し指を口元に当てて音量を調整するように促す。


しかしその行為が彼女たちに火をつけてしまったのか席を立って俺の目の前に壁を作る。


「あの、あなたは、キラーを倒した人ですよね?」


余程興奮しているのか日本語がたどたどしい。


「ええ、まぁ」


彼女達の声量を抑えようとこちらは出来る限り小さい声で返事をした。


もちろん、他の乗客に聞こえて欲しくないという気持ちもある。


「キャー!!!」


推しの男性アイドルグループを目の前にしたかのような歓声に眉をひそめる。


他の乗客達も何があったのかと身を乗り出してこちらに注目している。


「頼むからもう少し静かにしてくれないかな」


女学生達は無言で何度も頷く。


「握手してもらっていいですか?」


手を差し出されたが自分の手を差し出す気にはなれなかった。


相手の手の感触もわからず、自分の手は冷たく硬いのだろうと心配になったからだ。


「君達、いくつ?」


「大学四年生です!」


こちらからの質問にまた声が大きくなる。


再び人差し指を口に当てて静かにするよう促すと


「じゃあ、皆で酒でも飲みに行こう、知り合いなら何人連れてきてもいい。俺のおごりだ」


「キャー!!」


再び女学生達が大声を上げると隣に座っていた年配の男性がチッと舌打ちをした。


彼女達を黙らせるために連絡先を交換して今晩基地から近い所にある高級クラブなどが立ち並ぶ繁華街で待ち合わせをした。



 マンションに着くと小さなトラックが目の前に止まっている。


声を掛けると案の定俺の布団を運んでくれた業者だった。


急に運搬をお願いされた上に待たされた事であまり機嫌がよくない。


これではせっかく買った一番高い布団がぞんざいに扱われてしまうかもしれないと財布から紙幣を一枚渡し、急な配送と待たせてしまった事を謝罪した。


無機質な手で渡した紙幣と義手に大層喜んでもらえたようでその後は丁寧に中まで運んでもらい、梱包材も全て開封した後に回収してもらう事が出来た。


運んでくれた彼にはこれからの人生がある。


少しでも気持ちよく仕事をしてもらえた事に自己満足を覚えた。


今日は帰ったら酔いつぶれて直ぐ寝るかもしれない。


そう思うと布団は片付けずにそのまま敷いておく。


服装はいつもの軍支給のセットだったが最近ではこの服装がしっくりくる。


女学生達と待ち合わせた時間もあまり猶予が無かった為試しで布団に横になりたい気持ちを抑えて部屋を出た。



 繁華街にはマンションから歩いて五分程度の距離だった。


美味しいステーキを食べた後で旨い酒が飲みたい気分に任せて例のカードが使えそうなイタリアンお店を探す。


女学生と連絡を取るとどうやら十人程集まったとの事だ。


お店側にも人数を伝えながら今すぐに入れるお店を探すと、店名に<ワイン>と名の付くお店に席を確保することが出来た。


直ぐに女学生達に場所の地図を転送すると四半刻もせずに全員が集まった。


集まったのは女学生ばかりで、特別高い店に入ったわけでもなかった為皆それぞれカクテルや無理をしてワインを飲む者がいて場は大いに盛り上がった。


「マツダさんは、彼女とかいないんですかぁ~?」


案の定酔った女学生達に質問攻めにされるがこういった華やかな学生生活を送ったことが無かった為新鮮で楽しかった。


「いるよ、子供もいる」


「えー!じゃあ浮気じゃん!」


「ははは、そうだね。でも彼女はどこか遠い所に消えてしまったみたいで多分もう会えないんだ」


「何それ!その女最低!可愛そう!」


一条の事を悪く言われるのは不本意だったがどうせ彼女達は一条が消えた本当の理由を知らない。


適当に相槌を打ったり、義体をもみくちゃにされながら楽しい飲み会は終わった。


先の買い物で現金をおおよそ使い切っていた俺は仕方なくカードで支払いを済ませると二次会にカラオケに行くという彼女たちに持ち合わせの現金を全て渡して別れた。


久々にお酒を飲んで気分がよくなった俺はせっかくなので高級クラブというやつに行ってみる事にした。


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