62、技術者斎藤
あのあと斎藤とは子供を引き取るのに至った経緯と今後について話し合った。
一条からは子供の事をお願いされた位であまり詳細を話していないとの事だ。
斎藤の奥さんには既に話は通っているようで俺の知らない間に何度か会いに来ているのだそうだ。
知り合いの産婦人科医にお願いをして出生届を出す予定だそうだが、一条と俺の名前で出生届を出して養子縁組として引き取るという考えのようだった。
普通に生まれて来たのであればそれでも良かったかもしれないが将来の事を考えれば斎藤夫妻の子供として出生届を出すべきだと諭した。
技術者とはいえ科学者の端くれなので出生の事は正しい手順を踏みたいとの事だったがある程度大きくなった時点で出生の詳細を話してもらうという形で落ち着き、名前に関しても好きな名前を付けてもらって構わないと伝えた。
「なんだか遺言みたいだな」
「これから死にに行くので遺言そのものですよ」
「じゃあ、子供に手紙を残しておいてよ。社会人になった時にでも渡すから」
「え、手紙なんて恥ずかしいから嫌ですよ」
「じゃあ、ビデオレターだ!よし!言い考えだろう!ちょっと待って!」
斎藤は余程良い考えだと思っているのだろう。
ビデオカメラを取りに行く足取りが軽い。
間もなくしてビデオカメラを持った斎藤が戻ってくるが本当は断わりたくて仕方がない。
だが、本当にうれしそうにはしゃぐ斎藤の顔を見ていると断わる事が出来ず、子供の入ったガラスケースの前で撮影を行った。
「もういいでしょう?あと斎藤さんも一緒に映っておいてください、二人でこの子を囲む感じで」
「お、それは名案だ!」
そうして肩を組んだ二人の間からガラスケースの中にいる子供が映る形でビデオレターを終わらせた。
「じゃあ次は戦場で会いましょう」
「そうだな。俺達にはまだやる事がある。って言っても俺はマツダさんのサポートをするだけしか出来ないけどな」
「そういえば、ドローンはどうなりました?倉庫にありませんでしたけど」
「ああ、あれは今上にあげてあるよ。特撮物みたいに天井がガバーって開いて発射する感じだ」
「それ、見られます?出動の時に道に迷わないように」
「よし、じゃあこっちだ」
斎藤に付いていくと研究室隣の倉庫に天井まで伸びたパイプに着いた。
「まさか、これを昇るんじゃないでしょうね?」
「よく聞いてくれました。床についている鉄のパネルを踏んでみてくれ」
斎藤に言われた通りにパイプの床に不自然に設置された鉄のパネルを踏むとパイプからハンドルが現れた。
指の形のような溝が付いている所を見るとこれを握るのだろう。
パイプには溝が掘ってあり天井まで続いている。
そして先程まで天井に突き刺さっていたパイプ周りの床が開いていて天井にもう一つの空間が露になっていた。
溝といい、天井の穴といい、これから起こる事が完全に予想できる。
「じゃあ、そのハンドルを握って少し下に引いてみてくれ!」
やっぱりだった。
恐らく上に引っ張られて昇るのだろう。
正直言って自力で昇るのもでは無かった事にホッとしたがこんなハンドル一つで天井の高い倉庫の屋根裏まで行けるのかどうか不安だった。
どうせ落ちてもこの足なら着地できるだろうとハンドルを引くとまるで大きく跳躍したかのような感覚で天井裏の部屋まで到達した。
同時に足元で開いていた天井も閉じて無事に着地する。
これは思ったよりも快適だ。
天井裏の空間には既に明かりが付いていて先日見たドローンが専用の台に乗せられていた。
違う所と言えば搭乗部分に火器が複数装備されていた。
先日火器を使いたいと言った事をそのまま取り入れてくれたのだろうが今となっては素手で戦う方が勝機があると感じていた。
「火器を装備させてみたんだ、凄いだろう!」
斎藤も例のパイプを昇ってきたようで装備された火器を嬉しそうに自慢している。
この状況ではやはり要らなかったとも言えない。
「最新式の国産5.56ミリ小銃と米国産の5.56ミリ小銃を装備してある。そこの壁に替えのマガジンを装備してあるベストが掛けてあるからそれを装備してから出動するといい」
「それはすごいですね!ありがとうございます!」
これで、最初の出動時にはこの火器を使う事になるだろう。
対応に困っているとタイミングよく赤石から電話が来た。
「もしもし」
「マツダさん、部屋の用意が出来たようですので一度執務室へ来ていただけますか?」
「直ぐにいきます!」
これこそ御釈迦様の蜘蛛の糸というものだろう。
「すみません、赤石少佐に呼ばれてしまったので行きますね」
「そうか、じゃあテスト飛行はまた今度にしよう!」
最後まで楽しそうにしている斎藤を背中に俺はパイプを使って倉庫に下りた。
11月8日日曜日は定休日です。




