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61、子孫

 赤石と新しい部屋の話がまとまると執務室を出て研究室に向かった。


赤石が言うには今日中に新しい部屋の手配が出来るとの事だ。


家具はすぐに入れられないが最低限必要なものも用意してくれるらしい。


研究室に向かったのは、赤石が夕方まで時間が必要という事だったので先日米軍兵士に絡まれていた斎藤の様子を見ておきたかったし、迷惑をかけた事を謝罪しておきたかった。


研究室には特にノックも無く扉を開けて中に入って行く。


何度か一条や斎藤とも一緒に入ったが共有スペースのような感覚が身についていていた。


「斎藤さん、いますか?」


誰の返事も待たずに中に入って行く。


斎藤がいつも作業をしている机には特別何か作っている様子も無く片付いていて斎藤の姿はない。


倉庫にいるのだろうと奥の扉を開けると以前まであったドローンも姿を消しており、ここにも斎藤の姿は無かった。


以前ここでドローンの搭乗部分の調整のために訪れた事を思い出し倉庫の中を一回りしたが特に真新しいものは無く、ただ広い空間が広がっている。


一回りしている間にひと際場違いな扉がある。


扉の中は薄暗く細い通路の奥にもう一つ同じような扉があり奥の部屋には明かりが付いていた。


明らかに怪しい雰囲気を感じたが恐らく斎藤はこの部屋にいるのだろうと恐る恐る扉に近づく。


扉は見た目通り自動扉だったようで近付くと同時に開く。


中に入ると壁から風が吹き出し半分を過ぎた辺りから霧状の薬品が散布される。


中は化学薬品などを扱う無菌室のような場所なのだろうと察して一度立ち止まって一回りする。


素人なりに中に何か菌を持ち込んではいけないと感じたからだ。


二度目の自動扉を開くと明るい部屋が広がる。


影など出来ない程あらゆる方向から光が照らされていた。


照らされているというよりは部屋全体が光っているような感覚だった。


俺を見つけた斎藤は急ぎ足で近づいてくる。


「君、勝手に入ってきちゃだめだよ!」


俺の肩を掴み、自動扉に押し返そうとする。


「すみません、セキュリティが無かったので入っても良いのかと思って」


「まぁそうだが、とにかく出て!」


「あの、先日のお詫びを言いに」


「その件は全然大丈夫だから!早く!」


妙に急かす斎藤に違和感を覚えて周りを見渡すと実験室さながら棚一面に試験管のような硝子容器が並べられていて中には肉の塊に見える不気味な物体が入れられている。


奥の方には大きなガラスケースの中に人の大きさの塊さえある。


一つは人型をしているが毛髪などは無く見るからにクローンだが、もう片方は手足ははっきりとしているが胴体と頭部が血管だけで出来た人のなり損ないだった。


人のなり損ないの方は俺の手足を保存していたものを再生しているのだろう。


本来ならばもっと衝撃的な物を目の当たりにしているはずだったが既に四肢が機械化された自分の姿を日常的に見ていた俺にとっては自分の手足を再利用してくれている事に有難ささえ感じる。


「もしかしてあれがクローンですか?」


「そう!そうだよ!ここは無菌室だから勝手に入ってきちゃ困るの!」


違う。


斎藤が隠したかったのはクローンでもなく無菌室だから追い返したいわけではない。


ただでさえ怪しい空間にあまりに慌てた斎藤の様子に、ここに何か隠されていると直感した。


「斎藤さん、ほんと、すみません」


一応断わりつつしがみ付く斎藤を引きずって先程から目線をやっていたクローンの方へ行く。


クローンのガラスケース前に付いた時、斎藤が何を隠しているのかがはっきりとわかった。


クローンのケースの隣、入り口から少し奥まっていて棚の陰になって見えなかったものが見えたからだ。


子供?


乳幼児だろうか、隣にあるクローンとは明らかに他の二体とは雰囲気がかけ離れている。


「これは?」


「これは?じゃない!駄目だ!早くここから出てくれ!」


「斎藤さん、何か隠しているでしょう?」


「そりゃ軍事施設だからな!隠して当然だ!だから早く外に行ってくれ!」


斎藤は額一杯の汗を浮かべながら必死な形相で俺を追い返そうと体全体で体重をかけてくる。


「この子はもしかして、俺の子ですか?」


一条の手紙に記された<私たちの赤ちゃんは無事です>の言葉を思い出し斎藤の肩を優しく支えて問質す。


恐らくこの小さなガラスケースに入った子は俺と一条の子なのだろう。


確信を突かれたかのように斎藤が抵抗を辞め黙り込む。


「この子は・・・俺の子だ」


斎藤の様子を見るまでも無く一条ならばやりそうなことだ。


<私たちの赤ちゃんは無事です>


この言葉に秘められたものは全てこの部屋と斎藤に集約されている。


俺の死と自らの身の危険を予見していた一条の策なのだろう。


「斎藤さん、この子を、お願いしますね」


そう言って俺は斎藤の肩に手を添えたまま頭を下げて泣いた。


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