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60、咎

 基地に着くとまず赤石のいる執務室に向かった。


今までも何度か基地に呼ばれる事はあったが決まって執務室で待っていたからだ。


扉を三階叩くと案の定中から赤石の返事が聞こえるので中に入った。


机から応接用の椅子に向かい促されるまでも無く俺もいつもの椅子に座る。


何度も同じやり取りを行っているので一つの流れとして定着してきたのだろう。


「マツダさん、先日はすみませんでした」


「え、何の事です?」


てっきりこっぴどく叱られるものだと思っていたので拍子抜けだった。


「お腹の傷はいかがですか?」


今は皮膚に穴が開いたままだが既に痛みは無く、腹というよりは心に穴が開いたままだ。


俺は何も言わずシャツをまくり上げて腹を見せた。


「表面だけで止めましたか。凄い体ですね・・・」


「赤石さんが撃ってくれなければもう一人にも怪我をさせてしまう所でした」


「怪我だけで済んでいれば良かったのですが、マツダさんに腹を殴られた兵士は重体で恐らく生涯歩くことはないでしょう」


「えっ・・・」


「内臓破裂、そのうえ脊椎損傷です。損傷というのは優しい表現ですがね。マツダさんの体はもう普通の人間とは違うのですから人間を相手に武力を振るうのは今後遠慮して頂きたいです」


「謝罪しに言った方がいいんでしょうか?」


相手の状況がそこまでになっているとは思っていなかったのでテーブルに身を乗り出した。


「米軍には一般人の協力者に暴言を吐いて怒らせた、止めるために腹を撃ったが今後協力を得られなかったらそちらの責任だ。と、言ってあちら側の責任として話が付いています。話に矛盾が生まれてしまうので謝罪は行わないで頂きたいです」


「すみません、色々面倒かけてしまいました」


「いいんですよ。何も考えずにクローンを起動した彼らに正直幻滅していましたから丁度良い薬でしょう」


人一人の人生を奪う程の怪我を負わせてしまって薬で済ませてしまう所はやはり軍人なのだろう。


普段穏やかでも人をためらいも無く撃てる所は赤石の階級が物語っていた。


「それで、今日呼ばれた要件を聞かせてもらえますか?」


「クローンの件ですが、こちらで運用することになりました」


「じゃあ!こっちが主導でキラーの討伐を行えるんですね!」


自分がキラーと戦い危険な状況になるというのにこの時はなぜか気分が高まった。


米国管理でいつキラーを発生させられるかわからない状況ではまともに討伐することも難しいだろう。


「それに伴って米国から世界中にキラー発生時の案内をしてもらう事になっています。ですのでクローン発生時さえ事前に案内しておけばこちらの好きな都合で討伐を行う事ができます」


「クローンを破壊してしまう事でどうにかならないんですか?」


「失礼な言い方になりますが、マツダさんを処分しなかったのはその後キラーが消えてしまうかどうかがわからなかったからです。クローンも同様で破壊した後にクローンだけが永遠に残ってしまう事が最も恐れる事態なのです」


「じゃあ、俺がキラーを制御できるようになったらどこの国からも標的にされずに無敵って訳ですね」


きっとまずい事を言ったのだろう。


赤石が俺の目を見据えて瞬きもせず微動だにしない。


「じょ、冗談ですよ。クローンのキラーを全部倒したらちゃんと最後の一体もやりますから・・・」


赤石の眼力が尋常ではない様子だったため思わず弱気になった。


「お願いします。あまり過激な発言をされるとこちらも<人道的>という事にこだわっていられなくなっていまいますから」


「あなた方に俺を止められるとでも?」


「・・・・・」


半分冗談で言ったつもりだったが赤石の顔が今まで以上に強張ってしまう。


眉間に皺を寄せた赤石がキラー討伐軍を任された理由がそこに詰まっているように見えた。


「ごめんなさい、悪ふざけし過ぎました・・・」


立て続けに冗談を言ってしまい肩を窄めて両ひざに両手を置いた形で縮こまり頭を下げた。


赤石は腕を組んで背もたれに体重を預けたまま頭を背もたれに乗せて天井を見上げながら大きなため息をつく。


「マツダさん、一時はあなたを昏睡状態のままにしてキラーを発生させなくしろだとか脳だけ取り出して保存し、怒りの状態にならないように未来永劫管理していこうなどという案まで出ているのですから。本当に危険な発言はやめてください」


赤石は片手で頭を抱えながら心底迷惑そうな顔をする。


普段能面のように無表情な赤石にこういう様々な表情を引き出せた事に新鮮な気持ちを覚えたが赤石の言っている内容は俺にとって恐怖そのものだった。


「そんな管理する手間をかけさせる位ならいっそ自害するので安心してください」


「自害も駄目です!キラーは最後の一体まで討伐をお願いしますよ。話はだいぶ逸れましたが、先程お伝えしたクローンの件です。こちらで管理することになったのでマツダさんには協力してクローンから発せられるキラーの討伐をしていただければと思っています」


「でもそれはそちらでクローンを作った事で発生したんですよね?俺には完全にとばっちりではないですか?」


「仰る通りです。ですが我々はマツダさんを頼るしかない。ですので先日の米軍の件も簡単に揉み消す事が出来る訳です」


「まぁ言われなくても全て倒そうと思っていましたが、移動が面倒になるのでこの前までの部屋をもう一度使えるようになりませんか?」


ホテルを転々とする生活に飽き飽きしていた俺は今一番欲しい住まいについて提案をした。


正直言って何でも揃っているあの部屋がとてつもなく気に入っていたからだ。


「あの部屋は、大陸の兵士がまだ処分することが出来ません。国際問題なので、あの部屋はもう使う事はできませんが、そうですね、近くに良い部屋を用意させましょう」


「それはありがたいです」


話がまとまった所で赤石と握手を交わし、部屋が確保出来次第連絡を貰える事になった。


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